中村慶太は自分との約束を守るように、5年ぶりに愛し愛される長崎の地へと帰ってきた。帰って来るや否や、チームの主軸としてフル稼働し、かつて自身が長崎で経験したJ1昇格を再度成し遂げようと奮闘している。「J1でもう1回やりたい」。長崎を愛し、愛されるローカルヒーローは燃えたぎる思いを胸にチームを高みへと牽引する。
5年ぶりに長崎に帰ってきた中村慶太
ローカルヒーローが好きだ。
ここで言うローカルヒーローとは、知名度が低いとかマイナーといったネガティブな意味ではない。地域を愛し、地域に愛され、地域の人たちがその素晴らしさを一番理解している存在という意味だ。
芸能界にもローカルタレントと呼ばれる人たちがいる。最近、CMなどでよく見る王林さんは青森のローカルタレントだったし、今では全国区の大泉洋さんも北海道ではローカルタレントだ。彼らが何気ないときに垣間見せる地域愛が何とも心地良いのである。
バンディエラ、フランチャイズプレーヤーなど呼び方は違えども、フットボールの世界にも地元で熱烈に支持されるローカルヒーローたちがいる。3年前に中村憲剛さんは川崎ではずっと最高のヒーローだったし、福岡で「ヒーローは誰か」と聞けば「城後寿」の名前が挙がるだろう。
長崎で言えば、2005年のチーム創設時唯一のプロ選手であり、現役引退後もクラブに留まり、アカデミーで指揮を執る原田武男U-18監督は古参にとってのローカルヒーローだ。
長崎でプロとなり、セレッソ大阪に移籍後に日本代表に選出された毎熊晟矢は、長崎のサポーターにとってローカルスターが全国区になったような感じだろう。加入以来、全てのシーズン、監督の下で主力を務める澤田崇にもその資格はあるし、父が地元社会人チームの名手で、小学校から長崎一筋の安部大晴は未来のローカルヒーロー候補だ。
そして今夏、5年ぶりに長崎へ帰ってきた中村慶太も間違いなくローカルヒーローの一人である。
高木長崎にハマり、主力としてJ1昇格に貢献
2015年当時にV・ファーレン長崎で強化を担当していた竹村栄哉は、大学でプレーする中村を見て「すぐに獲得したい」と考えた。竹村自身も現役時代は積極的な仕掛けを武器に複数のJクラブでプレーしたドリブラーである。アタッカーの質を求める点においては人一倍厳しい。
その竹村から見ても中村のパワフルなドリブルやパンチ力のある仕掛け、そして強烈なシュートは魅力的なものだった。竹村はすぐに獲得へと動いた。
「他クラブが獲りにくる前に決めてしまいたかった。絶対、他に獲られたくなかった」……
Profile
藤原 裕久
カテゴリーや年代を問わず、長崎県のサッカーを中心に取材、執筆し、各専門誌へ寄稿中。特に地元クラブのV・ファーレン長崎については、発足時から現在に至るまで全てのシーズンを知る唯一のライターとして、2012年にはJ2昇格記念誌を発行し、2015年にはクラブ創設10周年メモリアルOB戦の企画を務めた。