イングランドで9月1日に幕を閉じた2023-24シーズン夏の移籍市場。そこでチャンピオンシップから個人昇格を果たした注目のプレミアリーガー3人を、ストークでスカウトを務めた田丸雄己氏に選出してもらった。
イギリス現地時間8月11日に開幕したプレミアリーグには毎年、世界最高峰の選手が集う。新戦力には遠藤航(リバプール)をはじめとする国外1部リーグ屈指の実力者もいれば、エバン・ファーガソン(ブライトン)に代表されるアカデミーシステムを駆け上がってきた国内随一の若手もいる。この新規参入組で忘れてはならないのは同国2部以下からの個人昇格組だ。
イングランド2部はチャンピオンシップと呼ばれている。このコンペティションの競争力、経済規模を考えるとただの国内2部とは侮れない。上位クラブであれば毎シーズン20億円以上、中小クラブでも数億円単位の移籍金で国内外の有望選手を獲得できる経済基盤があるからだ。
予算規模は選手獲得だけではなく、スタジアムやトレーニンググラウンドなどの周辺施設から監督コーチ、アナリスト、スカウトといったテクニカルスタッフに至るまで充実しており、パフォーマンスとその周辺環境においても欧州中堅国の1部リーグと引けを取らない。スカウト界隈でも競技レベルでは、エールディビジ、スコッティッシュ・プレミアシップ上位クラブ、ベルギーリーグ上位クラブ、ポルトガルリーグ中位・下位クラブと同等と見られているほどだ。そんな“プチプレミアリーグ”から今夏、本家入りを果たした注目選手を紹介していく。
アレックス・スコット
2003.8.21(20歳)ボーンマス
8月10日にブリストル・シティからAFCボーンマスへの移籍が発表されたのが、アレックス・スコットだ。移籍金は日本円にしておよそ38億円。20歳ながらすでに2部では83試合に出場、5ゴール8アシストの成績を残している。育成の魔境とも呼べる18~22歳の年代で順調に成長の階段を登っており、17歳の時点で選出されたイングランドU-18から現在のU-20まで世代別代表に名を連ねている。
順風満帆なキャリアパスをたどっているように見えるスコットだが、実はずっとエリートだったわけではなく、13歳でサウサンプトンのアカデミーから放出された過去を持つ。アマチュアレベルに零れ落ちた彼は14歳から16歳までを地元クラブのガーンジーFCで過ごし、歴代最年少のトップチームデビューを飾る。その急浮上がスカウトの目にとまり、ブリストル・シティのU-18へ移籍を果たしたわけだ。8部クラブから2部クラブのU-18への移籍は異例で、様々な議論を呼んだが実力で周囲を納得させ、2020-21シーズンにプロデビューを果たした。
その持ち味は8番ポジションから出し手としても受け手としてもなれる足元のうまさ。すなわち相手を引きつけ、フリーになった味方へ“ボールをリリースすること”だ。イングランドではよくチームメイトが前方にあるスペースへと走り込めるようなパスを出すことを「〜をリリースする(解き放つ)」と表現するが、まさにこの慣用句が多用できる選手と言えよう。……
Profile
田丸 雄己
1994年生まれ。高校卒業後、イギリスに短期留学した後、Jクラブやサッカーコンサルティング会社での勤務を経験。その後、イギリス、ロンドンにあるセントメアリーズ大学に進学。在学中にチェルシーアカデミーでスカウトのインターンを経験し、現在は英二部ストーク・シティとスコットランド一部マザーウェルでスカウトとして活動中。ロンドンエリア、Jリーグのスカウトを担当している。