長く欧州サッカー界の先頭集団に身を置き続けてきたドイツ。その国内で注目のトピックスを、気鋭の現地ジャーナリストがピックアップし独自に背景や争点を論説する。今回は、フォルトゥナ・デュッセルドルフの仰天プランへの賛辞と懐疑。
※『フットボリスタ第97号』より掲載。
春頃には1部昇格を夢見たファンもいたかもしれないが、フォルトゥナ・デュッセルドルフの22‒23は終わってみれば平凡なシーズンだった。下位に沈む訳でもなく、かといって上位3位以内に入るには力不足は否めず。ドイツで最も人口の多いノルトライン・ベストファーレン州の州都が拠点のこのクラブが、全国版メディアで話題になることはほとんどなかった。
ところが、4月のある日、そんなフォルトゥナの発表がヨーロッパ中にセンセーションを巻き起こした。スタジアム観戦を無料にするという計画を打ち出したのだ。
“Fortuna for All”(フォルトゥナをみんなに)をスローガンに掲げた彼らのアイディアでは、スポンサーの協力を得て23-24シーズンはまず3試合で実施し、いつかはすべてのホームゲームに無料で観客を入れることを目指すという。これはアウェイチームのファンも対象となる。
計画について、フォルトゥナの財務責任者アルント・ホーベマンは「いつ17試合の無料観戦を保証できるようになるかは、まだわからない。しかし、土台はできている」と語る。
計画では、チケット販売によって得ていた収益は新たなパートナーシップによって得ることを想定しており、5年間で計4500万ユーロ(約68億円)を支払う4つのスポンサーも併せて発表された。パートナーたちは、このプロジェクトに関わることでイメージアップを図りたいと考えている。一方クラブ側は、観戦料金をなくすことによって観客数を現状の平均3万人から大幅に増やし、ビールやソーセージの売上が増えることを期待している。
「商業化に拍車」という指摘も
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Profile
ダニエル テーベライト
1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。