昨季プレミアリーグで12位に沈んだチームの再建を新監督マウリシオ・ポチェッティーノに託したものの、2023-24シーズン開幕2戦は1分1敗。続く第3節でチェルシーに立ち込める暗雲を得意のドリブルで切り裂いたのは、復活を期す加入2年目のラヒーム・スターリングだった。新時代の主役候補筆頭である28歳への期待を、現地ロンドン在住の山中忍氏が綴る。
今季プレミアリーグ第3節、マウリシオ・ポチェッティーノ新体制下のチェルシーが、8月25日のルートン戦(○3-0)で初白星を上げた。勝利の立役者は、全得点に直接関与したラヒーム・スターリング。まずは前半の17分、右アウトサイドから相手DF2名を手玉に取ってボックス内に切り込むと、利き足ではない左足で正確にゴール左下隅へと先制点を決めた。
後半に入っても、68分に今度はゴール正面で右からの折り返しを右足で左下隅に流し込み。小柄だが体幹の強さを生かしたキープで、ビルドアップに絡んで後のフィニッシュだった。
その2分後には、軽くバウンドして届いたパスからダイレクトでグラウンダーのクロスを放ち、新CFニコラス・ジャクソンの移籍後初ゴールをアシストしている。[3-4-2-1]の“シャドー”ながらスポットライトを浴びたスターリングは、ボックス内でのシュートがブロックされた開始早々5分から、敵に最大の脅威を与えるアタッカーであり続けた。
まさかの昨季は、リーグ戦全38試合で計38得点の12位に終わったチェルシーにとって、ホームでのリーグ戦勝利は5カ月半ぶりだ。3得点でのホームゲーム勝利となると、昨年10月上旬まで遡る。スターリングがベンチに下がった後半アディショナルタイム2分、スタンフォードブリッジに戻った笑顔と大歓声の源を拍手喝采で労ったサポーターたちに言わせれば、久々快勝の主役は「うれしい誤算」といったところだ。
昨季は疑問の声も…予想に反する復活への期待
チェルシーでは、昨夏のオーナー交代を境に「計算外」が相次いでいる。その悪しき流れは、新体制始動後も続いていた。プレシーズン中のベストプレーヤーだった新FWクリストファー・エンクンクは、最後の調整試合で膝を痛めて長期離脱。開幕を迎えると、リバプールとの初戦(△1-1)では新キャプテンのリース・ジェイムズ、翌週のウェストハム戦(●3-1)では、スタメン抜擢が続いた19歳のMFカーニー・チュクエメカが故障者リストに加わった。結果、ルートン戦でのベンチは、9人中8人がティーンエイジャー3名を含む21歳以下。その第3節で初先発した移籍金1億1500万ポンド(約212億円)の新MFモイセズ・カイセドは、前節でPK献上を含む悪夢の30分間デビューを経験していた。
ところがスターリングだけは、予想に反する好調ぶりを見せていた。チームが1ポイント獲得にとどまった開幕2戦でも、チェルシー2年目28歳のパフォーマンスが復活への期待を抱かせた。ホームでの開幕節、昨季は影を潜めていたカムバックが可能だったのは、敵の左インサイドハーフとして先発したコーディ・ガクポ背後のハーフスペースから突破口を作り出すFWがいればこそ。同点ゴールが生まれたコーナーキックも、相手左SBアンドリュー・ロバートソンの裏に抜けたランによる成果物だった。……
Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。