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ビルドアップ志向ながら、ロングボールを蹴らされてもネガティブにならない。ひと味違うポヤトス・ガンバの戦術的機能性を探る

2023.08.20

リーグ戦残り10試合となり各チーム目標へ向けて正念場を迎えるJ1にあって、前半戦の不調を脱し調子を上げているガンバ大阪。ダニエル・ポヤトス監督はチームにいかな戦術を施し、その機能性がどうなっているのか、らいかーると氏が分析する。

 ダニエル・ポヤトス監督率いるガンバ大阪の今季ここまでの結果はジェットコースターのようなものだった。第23節横浜F・マリノス戦でリーグ戦では第14節以来となる黒星を喫したものの、エウベルの退場をきっかけにガンバらしいサッカーで横浜FMのゴールに何度も迫っていくプレーは印象に残った。ポヤトスによって、欧州の風を少しばかり感じさせるようになったガンバ大阪の現状を確認するのが今回の趣旨である。

ボールの失い方の改善

 相手がボールを保持するチームの場合、プレッシング側の心理はどういったものになるだろうか。相手に綺麗な前進を許してしまえば、プレッシング失敗が頭をよぎるだろう。永遠にボールを奪えそうにない雰囲気の中で相手を追いかけ続けることは、精神的にキツいのだ。逆にボールを奪えればプレッシング成功となり、その勢いが増すかもしれない。では、相手にロングボールを蹴らせることができたらどうだろうか。ロングボール後がどうなるかは置いておくとして、ビルドアップを志向するチームにとってはあまり歓迎すべき状態ではないだろう。ビルドアップ側からすれば、ボールを蹴らされた状態はネガティブな状況となることが多い。

 しかし、ガンバ大阪はまるでへこたれないのである。基本的に、CBで延々とパス交換をするくらいに今のガンバ大阪はボール保持傾向が強い。相手のCBを相手陣地に押し込めそうなイッサム・ジェバリですらビルドアップの出口となろうとするくらいに、ビルドアップの設計図が明確に存在している。設計図が存在し、CB間でパス交換を繰り返すようなチームにとって、ロングボールを蹴る状況に追い込まれることはネガティブであることが多い。自分たちのやりたいことができていないからだ。

 その点、ガンバ大阪はひと味違う。ゴールキックは基本的に蹴っ飛ばす。CBが相手のプレッシングで追い込まれたら、GK東口順昭に平然とボールを下げる。その東口も無理をせずに相手の裏へと蹴っ飛ばす場面が多い。もしくは、ジェバリとダワンを空中戦の的とする選択肢もある。ボールを大事にする志向がある一方で、ロングボールを強いられる状況でもガンバ大阪がネガティブな雰囲気をまるで身にまとっていないことは注目に値する。相手のプレッシングによって自分たちのサッカーが表現できていないなんて思いはまるで存在せず、ボールを捨てる時は潔く捨てる。ボールを捨てる行為にネガティブさを感じさせない現在のガンバ大阪は、非常に興味深いチームになっている。……

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J1リーグガンバ大阪ダニエル・ポヤトス

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。

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