今夏日本を大い盛り上げた3冠王者マンチェスター・シティの来日。同じシティ・フットボール・グループの一員である横浜F・マリノスとの一戦は“兄弟クラブ”の間で計8ゴールの白熱した乱打戦が演じられ、22-23ブンデスリーガ王者であるバイエルンと激突した“ビッグクラブ対決”には、国立競技場で史上最多となる6万5049人が世界最高峰のプレーに酔いしれた。大成功を収めた来日ツアーをアレンジしたシティ・フットボール・ジャパン代表の利重孝夫がその舞台裏を明かしつつ、4月のFIFA主催講義で解説した日本サッカーの特殊性や議論が続くシーズン制移行の是非を踏まえて、グローバルな視点からJリーグの成長戦略を問う。
前回の寄稿から半年余りが経過した。W杯は僥倖だったと言いつつ、無観客を余儀なくされたオリンピックの影響で大きく落ち込んだスポーツマーケティングの世界をWBCのお蔭で一息つけた第一四半期、続いてポストコロナで様々なプロジェクトが動き出し始めた第二四半期と、2023年上半期の自らの仕事を振り返りながら、サッカービジネスの世界のトピックについてレビューしていきたいと思う。
7月下旬にJリーグは夏の中断期間に入り、(今年は6月に来たバルサを含め)セルティック、マンチェスター・シティ(マンC)、バイエルン、PSG、インテル、そしてクリスティアーノ・ロナウドが在籍するアル・ナスルと、例年になく数多くの海外クラブが来日することとなった。ただし、特に欧州ビッグクラブにとってプレシーズンツアーの目的地は何も日本に限定されているわけではなく、セルティックやマンC、アトレティコは韓国(セルティックは中止)、バイエルンはシンガポールに移動して試合を行ったし、その他でも例えばトッテナムなどはパース(オーストラリア)→バンコク(タイ)→シンガポールといった意欲的なスケジュールが組まれており、この時期アジア・オセアニア各国で盛んに興行が行われた。しかし、やはり最も規模も大きくクラブ側からも好まれるのが北米ツアー。今年もレアル・マドリー、バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッド(マンU)、アーセナル、ユベントス、ACミランがそれこそ全米各地でお互いに対戦するカードが組まれた。
自らもCFGの一員として、マンCプレシーズンツアーのアレンジに直接関わることになった。実際に、その目的地を日本にさせるべく働きかけてきた活動は今年上半期のハイライトだ。世界規模のファンベースを有する欧州ビッグクラブにとって、毎年オフシーズンに行うツアーは貴重なマーケティング、そしてマネタイズの機会であり、またシーズン開幕を間近に控えた中でフットボール面においても新加入選手を含めた重要な準備の場でもある。マンCもコロナ期間中は中断を余儀なくされていたが、昨年(2022年)は北米ツアーを敢行し、ヒューストン(クラブ・アメリカ/メキシコ)とグリーンベイ(バイエルン)の2試合はともに満員御礼となり大成功を収めていた。
満点に近いアレンジを実現させた4つの要因
さて今夏も米国に行くのか?それともアジアなのか?そして、もしアジアだとしてもどの地域、どの国に行くのか?限られた椅子の座を巡り激しい争奪戦がクラブ内外で繰り広げられることとなった。今年はプロジェクト稼働当初の段階ですでに過去最高レベルの、合わせて世界10数か国にも上る引き合いがあった中で、まずは大きな選択として今年はアジア・オセアニアに行くとの方向性が示された。そうとなれば、これは是が非でも日本への招へいを実現させようとさらに躍起になったわけだが、特に直接の競合先となるアジア・オセアニア他国では、招へいの際(雇用促進や観光業援助などの目的で)多額の補助金がつけられるため、経済条件的に十分対抗できるオファーを取りつけなければならず、この点をクリアさせることが次のステップに進むためには最重要課題となった。
また、プレシーズンマッチは世界市場へのお披露目の場でもあるので、開催国クラブとの対戦以上に、欧州のビッグクラブ同士のマッチメイクが重視される。そのため、各プロモーターからのプロポーザルをレビューしつつ、今年アジアツアーを検討している他の欧州クラブとも緊密に連絡を取り合いながら、基本形となる1週間3試合をどこでどのクラブと、幾らのギャランティを得て行うのか?その最適解を求める果てしない調整がその後数カ月にわたって展開されることになった。……
Profile
利重 孝夫
(株)ソル・メディア代表取締役社長。東京大学ア式蹴球部総監督。2000年代に楽天(株)にて東京ヴェルディメインスポンサー、ヴィッセル神戸事業譲受、FCバルセロナとの提携案件をリード。2014年から約10年間、シティ・フットボール・ジャパン(株)代表も務めた。