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キーワードは「リスペクト」。批判する前に『蹴球ヒストリア』を知ろう!

2023.08.18

<コーナータイトル>
『蹴球ヒストリア』書評#3

好評発売中の『蹴球ヒストリア 「サッカーに魅入られた同志たち」の幸せな来歴』は、元Jリーグ中継プロデューサーで「最強のサッカーマニア」でもある土屋雅史が、「私がどうしても話を聞きたいと思った」12人の蹴球人の歴史を紐解いた一冊だ。書評企画の第三弾は、大分トリニータを追い続けるひぐらしひなつさん。取材対象者への深いリスペクトが彼女が感じたキーワードだ。

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 サッカーにまつわる仕事のほとんどは心身両面において恐ろしく過酷なもので、とりわけJリーグチームの監督や選手の「負け試合のあと」は悲惨なことになる。チームを応援してやまないサポーターからは敗戦の悔しさをぶつけられ、ちょっとディープなサッカーファンからも辛辣な批評を賜って、SNS上を言葉の礫が飛び交う。ストレートに罵倒するものあり、斜に構えた評論家気取りあり、それは自分に向けられたものではなくとも、目にすれば心が傷ついてしまうほどだ。

 プロだから、結果を求められる世界だから、甘んじて受け入れなくてはならない。おそらく礫を投げる方も投げられる方もそう思いながら、それぞれの悔しさを共有している。投げつけられた当事者は黙って滝に打たれるばかりだ。だが、第三者としては時に、投げられた礫のいくつかに対してこう問いかけたくなる。

 「アンタ、この人の何を知ってるんや!」

 この人の実情を知っている人だけが石を投げなさい。そんなイエス・キリストのようなことまで言いそうになるのは、礫の投げ方がターゲットに対するリスペクトをあまりに欠いていると感じる時だ。監督も選手もクラブスタッフも、矢面に立つ仕事の背後には様々な事情があり、その事情がそうなっている背景にはその人の哲学が横たわっている。それぞれの哲学はそれぞれの人生の中で導き出されたものだ。そこにたどり着くまでの道のりの長短にかかわらず、成功体験や失敗体験を重ねながら考えられてきただけの質量を持つ。

 それはリスペクトしようよ――と思うのだ。あなたが投げる礫の先にいるのは、ここまで懸命にサッカー人生を走ってきた一人の人間なんだよ、と。

 とはいえ、とりわけ礫の投げ手になるような人は、見えないところにまで想像力を働かせることが得意ではないのだろうなとも思う。そういう人たちに「ねえ、落ち着いた時に読んでみて?」と手渡したいのが、土屋雅史さんの『蹴球ヒストリア 「サッカーに魅入られた同志たち」の幸せな来歴』だ。この本は面白いぞー!(語彙力)

自然体。しかし、その裏に地道で膨大なリサーチ

 まず本書の帯文で森保一さんが「土屋さんに聞かれるとついつい雑談みたいに何でも話しちゃいますね」と語り、平畠啓史さんが「サッカーの楽しさや奥深さを言葉や文章で表現できる土屋雅史はボールを蹴らずともフットボーラーである」、ワッキーさんが「僕はこんなに日本のサッカーに詳しい人間を見たことがないし、こんなに日本のサッカーを愛している人間に会ったことがない」と評しているように、土屋さんの評価は業界内でもすこぶる高い。……

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蹴球ヒストリア

Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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