その10番がひとたびボールを持つと、何かが変わりそうな雰囲気がそこには現れる。山田直輝。湘南ベルマーレの在籍も通算8年目を迎える精神的支柱だ。近年は途中出場も少なくないが、それでも自身のやるべきことは変わらない。紆余曲折のキャリアを辿ってきたからこそ、ピッチに立つ意味は誰よりもよくわかっている。そんな33歳が感じるいまを、おなじみの隈元大吾が描く。
川崎フロンターレ戦で生まれた忸怩たる思いとやるせない感情
忸怩たる想いが胸中を占めていた。
ルヴァンカップグループステージ第6節川崎フロンターレ戦、互いに勝たなければ他会場の結果を待つことなく敗退が決まる一戦で、湘南ベルマーレは2点をリードしながら終盤3失点し、逆転負けを喫した。
やるせない感情のありかは、途中出場した自身のプレーにあった。6分、59分と効果的に加点し、ゲームを有利に進めていたなかで、73分に1点を返されるとまもなく、山田直輝はピッチに送り出された。
リードこそしていたものの、スコアを覆さんと意気高い相手に流れは傾いていた。刻々と残り時間が少なくなっていくなかで、追加点を奪えば勝利はより近づき、失点すれば追いつかれて振り出しに戻る。ゴールを求めるのと同時にゴールを許してはならず、とりわけ中盤を司るサイドボランチには難しいバランスが求められた。
そうして88分、スコアが動く。勝負の行方を左右する次の1点を手繰り寄せたのは川崎だった。彼らは同点に追いつくと、さらに後半アディショナルタイムにも追加点を挙げ、勝負は決した。
「勝つための準備はしていたんですけど、タスクをこなせなかった」
試合後、山田は自身に言及した。
「自分のプレーで得点を決められるチャンスもありましたし、ゲームをしっかり締めるタスクもあった。2-0から1点入れられ、少し雰囲気が悪くなっているところで流れを戻せなかったのは、自分の力のなさだと思っています」
リードしている状況下で途中出場する場合は、攻守両面に同じだけ気を配らなければならない。その点、ゴールを奪うことに注力できるビハインドの状況よりも難しさがあろう。
だが、そのうえで山田は言う。
「勝っているときは、チーム全体で守っているのか、もう1回押し返したいのか、流れを汲んでプレーしなければならない。難しいのは分かっていますが、そういう役割で入っているのでしっかりこなさなければいけないし、自分のプレーでもっとチームを落ち着かせなければならない。途中から出て逆転されたことはすごく悔しい。もっともっと途中出場でチームを助けられる選手にならなければいけないと、今年はとくに感じています」
先発出場と途中出場をフラットに受け入れる
2019年途中に湘南に復帰して以来、負傷離脱を除いて山田は多くの試合で先発を担ってきた。2021年にはリーグ戦37試合に出場し、うち28試合でスタメンを張った。だが昨季は、出場21試合のうち先発は7試合、今季は7月の中断まで13試合に出場し、先発は4試合にとどまっている。……
Profile
隈元 大吾
湘南ベルマーレを中心に取材、執筆。サッカー専門誌や一般誌、Web媒体等に寄稿するほか、クラブのオフィシャルハンドブックやマッチデイプログラム、企画等に携わる。著書に『監督・曺貴裁の指導論~選手を伸ばす30のエピソード』(産業能率大学出版部)など。