8月5日にニュージーランド・ウェリントンで行われた女子W杯ラウンド16で、日本代表はノルウェーを3-1で撃破。1-1で迎えた後半、50分に清水梨紗が勝ち越しゴールを挙げると、81分には宮澤ひなたが得点ランキング首位に立つ今大会5ゴール目をマークし、2大会ぶりのベスト8進出を決めた。準々決勝は11日。16強でW杯2連覇中のFIFAランキング1位アメリカを破った(0-0/PK戦5-4)、同じ北欧のスウェーデン(同3位)が相手だ。
グループCの首位(3連勝・11得点0失点)でラウンド16に勝ち進んだ“なでしこジャパン”はノルウェーと対戦。日本がFIFAランキング11位、ノルウェーが12位で、いわゆる“格上”ではないが、世界屈指の高さと強さ、選手によっては個人で違いを見せるスピードやテクニックもあり、日本にとって決してやりやすい相手とは言えなかった。
ただ、ノルウェーにとっても機敏性があり、コンパクトな守備から欧米の国にはあまり見られないような距離感でアタッカーが連動してくる日本には嫌な部分があっただろう。実際に攻撃時はこれまで通り[4-3-3]のフォーメーションだったが、守備になるとバルセロナ所属のアンカー、イングリッド・シルスタッド・エンゲンを最終ラインの中央に下げ、5バックで後ろを固めてきた。
それでも、池田太監督が「想定していました。今までのゲームを見て我われのテクニカルスタッフも、4枚になる時と5枚になる時があって、しっかり守ってくるのはわかっていたので、そんなに驚きはなかった」と語るように、ノルウェーの戦い方というのは試合ごとに大きく変わるわけではない。日本に対してはエンゲンが下がる形が固定的になったということだ。ただ、わかってはいても実際にこういう相手を攻略するのは簡単ではないだろう。
「何が起こるかわからない少し速いボールを…」
「ボールを持っている時間帯がけっこう長かったので。なかなか崩せない展開が続いて、弾き返されるシーンがあった」
そう振り返るのは、この試合で今大会3度目のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたMF宮澤ひなた(マイナビ仙台レディース)だ。[3-4-2-1]の左シャドーを担う宮澤はウイングバックの遠藤純(エンジェル・シティ)と左側のエリアをシェアしながらボールに絡んだが、序盤はボールを持っても、そこからなかなか危険な位置には入っていけない状況にあった。
それでも、15分にエンゲンのオウンゴールを誘ったシーンに関しては、3バック左の南萌華(ローマ)からパスが出ると「相手のDFラインが上がったタイミングで、何が起こるかわからない少し速いボールを、その時ファーにいた(藤野)あおばを目がけて蹴った」という宮澤。ゴール前にはFWの田中美南(INAC神戸レオネッサ)に加えて、右からシャドーの藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)が流れてきており、完璧に合わせるというよりは相手にクリアミスがあった時に、詰めてゴールを狙うような入り方だった。
右足のインスイングで上げたボールにエンゲンが反応すると、伸ばした足に当たって方向が変わり、GKのアウロラ・ミカルセンも予想外のクリアに対応が遅れて、最後はゴールの隅へと転がるボールに届かなかった。これまで日本が見せてきた攻撃からすると、少し強引なイメージだったかもしれないが、ノルウェーには効果的だったようだ。
しかし直後の20分、ノルウェーのゴールキックを起点に日本の左サイドを破られる形で今大会初失点となる同点ゴールを許したことで、そこからは難しい時間帯が続いた。気をつけないといけなかったクロス対応。このシーンは右ウイングのキャロライン・グラハム・ハンセンがインサイドでボールを受け、代わりに大外に開いたビルデ・ボー・リサのクロスをグーロ・レイテンが頭で決めたが、空中戦が得意とは言えないボランチの長野風花(リバプール)のところで合わせられたのが痛かった。
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Profile
河治 良幸
『エル・ゴラッソ』創刊に携わり日本代表を担当。Jリーグから欧州に代表戦まで、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。セガ『WCCF』選手カードを手がけ、後継の『FOOTISTA』ではJリーグ選手を担当。『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(小社刊)など著書多数。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才能”」に監修として参加。タグマにてサッカー専用サイト【KAWAJIうぉっち】を運営中。