<コーナータイトル>
『モダンサッカー3.0』書評#1
好評発売中の『モダンサッカー3.0 「ポジショナルプレー」から「ファンクショナルプレー」へ』は、イタリアでカルト的な人気を誇る若手指導者アレッサンドロ・フォルミサーノの革新的なメソッドがまとめられた一冊だ。書評企画の第一弾は、アカデミックな研究論文から欧州サッカーの最先端を読み解く結城康平さん。まだ見ぬ「3.0」の完成形について思いを馳せてもらった。
※無料公開期間は終了しました。
レナート・バルディとアレッサンドロ・フォルミサーノ、そして片野道郎。その名を聞くだけでも、名著の予感があった。イタリアの次世代を担う男たちの思想は、刺激的であると同時に理論的だ。
伝統への嫌悪感と、均一化するモダンサッカー
ジョゼ・モウリーニョとアントニオ・コンテのアプローチに対する厳しい評価は、本書における注目点の1つだろう。
イタリアの伝統的なフットボールを愛し、その戦術から多大な影響を受けたモウリーニョはインテルで黄金期を築き、その堅牢な守備と一撃必殺のカウンターこそがチームのアイデンティティだった。そしてアントニオ・コンテは、ビルドアップの豊富なパターンと攻撃的な戦術から当時のイタリアでは「先進的」だと思われていた監督だったはずだ。実際に、最初に彼の代名詞となったのが[4-2-4]だったように、闘将として知られた男は緻密な戦術でゲームの各局面を整備する能力に優れていた。
しかし、その2人をフォルミサーノは「焼き畑農業のようなアプローチ」と酷評する。彼らのスタイルでは、チームは1シーズン~2シーズンしか耐えられないと考えているからだ。フォルミサーノはチームを2年、3年、4年という長期的な目線で成長させていきたいと望んでおり、その視点ではモウリーニョやコンテのような手法は受け入れがたいのだと述べている。
議論の一部に登場する彼の友人(『モダンサッカーの教科書』の共著者でもある)、バルディも辛辣だ。「ピッチ上のサッカーに関して革新的だったことは一度もない」という評価は、スペシャル・ワンにとっては納得のいかないものだろう。そしてフォルミサーノもそれに対し、「反スペクタクル主義のダイレクトで退屈なサッカー」と答えている。ヨーロッパのモダンなコーチたちは、良くも悪くも均一化してきているとの指摘がある。スペインの哲学者リージョはW杯について、次のような面白いコメントをしていた。
「ノルウェー代表と南アフリカ代表のトレーニングを観察してみれば、それは一緒だ。そしてカメルーン代表とブラジル代表のユニフォームをハーフタイムで交換しても、多くの人はそれに気づかない」
フォルミサーノとバルディも(若いコーチの多くがそうであるように)、受動的なスタイルを嫌っている。彼らはイタリアという比較的「革新に対して慎重な国」で抑圧されてきたこともあり、反発も激しくなっているように思える。それがモウリーニョへのコメントに表れているように感じた。これまでにイタリア国内で優れていると考えられてきた「伝統」に立ち向かおうとする姿勢は明らかだ。……
TAG
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。