6月29日に国立競技場で開催された川崎フロンターレ対バイエルンの親善試合は、来日中のブンデスリーガ王者に0-1で軍配が上がった。互いに決定機を作り合った接戦で勝敗を分けた数少ない差を、西部謙司氏に解き明かしてもらおう。
サッカーの戦術は、手でボールを扱う球技(ハンドボールやバスケットボール)に近づいていくと以前から予想されていた。フィールドの広さやルールが違うので同じになることはないし、足を使う特性からいってもそうなのだが、近づいていくのはほぼ確実と言われていたし、実際そうなっている。攻守のターンがはっきりした展開になりつつある。
現在のトップレベルの試合で、どちらが主導権を持っているのかわからないほど混沌とした展開はほぼ見られなくなった。1990年代まで混沌とした試合は結構あった。中盤で激しく潰し合うだけで、はっきりとどちらのボールにもならないまま推移する。あるいはロングボールの蹴り合い。はたまたミス続出。そういうあまり試合は見られなくなった。
逆に90分間のあらゆる時間帯で一方が優勢という試合もなくなりつつある。かつてはバルセロナがほぼ90分間を通して攻守に自分たちのリズムで圧倒的な支配を貫徹していたが、そのような完全支配ができるチームも見られなくなった。
混沌ではなく、かといって一方的でもない。川崎フロンターレ対バイエルン・ミュンヘンもまたそのような試合になっている。
試合の局面はある程度明確に切り分けられるのが現代サッカーの特徴と言えるかもしれない。「①ハイプレス対ビルドアップ」「②守備ブロック対パスワーク」「③トランジション合戦」――今回は3つに切り分けて、川崎とバイエルンのそれぞれの優劣を考えてみたい。
結論を先に言ってしまうと、両者の差あるいは片方だけが持っているアドバンテージとして浮き彫りになっていたのはバイエルンのクイックネスとリーチだった。それ以外はほぼ優劣をつけがたく、試合結果もそれを反映して双方決定機があった中で1点を決めたバイエルンが勝利しているが、内容的にはほぼ互角だった。
局面①ハイプレス対ビルドアップ
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。