ツエーゲン金沢のベテランFW、杉浦恭平の変貌ぶりが目覚ましい。30歳を過ぎた頃からフィニッシャーへの扉を開き始めると、今季に至ってはシーズンの半ばを過ぎた時点でキャリアハイとなる9ゴールを記録。
「変化を受け入れてきた」という杉浦が、アタッカーとしてしっかりと握りしめてきたものは何か。ベテランになってなおスピード系のFWが存在感を放てるのはなぜか。
シーズンの半ばですでに9ゴール。34歳でキャリアハイを達成
大谷駿斗からのクロスが入ってくる瞬間、杉浦恭平はディフェンスの背中から一気にスピードアップしニアに飛び込む。キーパーが目の前を塞いでいるのを見ると、バックヒールで流し込むようにゴールを決めた。J2第26節の金沢vs仙台。34歳になった杉浦がキャリアハイとなる9ゴール目に到達した瞬間だった。
「日の出の勢い」「進境著しい」「覚醒の時」。どれも上昇気流に乗る若者を賛辞する枕詞でプロ17年目の杉浦には一見不適当な言葉に思われるが、近年の、そしてとくに今年の杉浦を形容するにはそのような言葉しか思い浮かばない。
第9節のいわき戦で34歳にしてキャリア初のハットトリックを達成。さらにはこれまでの年間最多が8ゴールだったにもかかわらず、シーズン半ばにして9ゴールに到達。得点ランクでも6位タイにつけている。
「中学ではサイドハーフ、高校ではフォワードもやったけど、プロに入ってからはサイドハーフばかりだった」と本人が語るように、キャリアの大半をサイドを主戦場に生きてきた選手が、この歳にしてなぜゴールを量産できるストライカーに変貌できたのだろうか。
2017年に仙台から金沢に移籍した杉浦。金沢でも当初はサイドハーフでの出場が多かった。しかしその年の半ばからは徐々にフォワードでも起用されるようになっていき、2019年、30歳を迎えたシーズンには完全にトップの選手として定着した。
「最初はサイドで前と後ろを繋ぐ潤滑油的な仕事をしていたけど、年々槍みたいな(縦にいける)選手がいっぱいきたから、僕はサイドハーフをクビになった。試合に出られるならどこでもよかったし、逆にフォワードで出るなら割り切って攻められるかなと思った。すごくありがたいというか、自分にとってはよかった」
プロサッカー選手としてのキャリアの終盤に訪れた大きな変化にも杉浦は前向きだった。ただ、そのシーズンは24試合、1103分と出場数・時間共に大幅に減少。過去2シーズンはいずれも40試合近く出場していたため、杉浦にとって苦しいシーズンとなった。そのため「考えることも多くなった」というが、そこで活かされたのが彼自身がこれまで歩んできた道のりだった。
「試合に出られなくて腐っている時間がもったいない」
2007年に静岡学園から川崎フロンターレに加入した杉浦だったが、3年間で出場できたのはたった1試合、4分間のみ。……
Profile
村田亘
編集プロダクション勤務を経て2013年にフリーに。エルゴラッソの記者、編集部勤務を経て故郷の石川県にUターン。2019年からツエーゲン金沢を中心に取材を続ける。