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ピケが主催する7人制サッカー『キングス・リーグ』が提示する新しいエンタメの可能性

2023.07.21

元バルセロナのジェラール・ピケが主催する7人制サッカー『キングス・リーグ』が話題を集めている。「サイコロ」「ダブルゴール」などの独特のルール、所属チームの会長にアグエロやカシージャスが名を連ね、特別ゲストでロナウジーニョやピルロが来る豪華さ、TwitchやYouTubeでの無料配信を軸にしているなど、新しいエンタメの可能性を提示している。スペイン在住の木村浩嗣氏に、ユニークなコンペティションを解説してもらおう。

 キングス・リーグで行われていることはサッカーではない。スポーツですらない。「スポーツ・エンターテインメントだ」とCEOが言っている。

 そのスポーツ+エンターテインメントのキングス・リーグのまずスポーツ面を紹介したい。

前後半20分ハーフで、とにかくスピーディ

 人工芝の上で行われているのは、7人制サッカーである。

 スペインでは小学生世代までのコンペティションに使われるフォーマットだ。普通は11人制のグラウンド1面に7人制を2面取る形で施設の有効活用がなされているが、キングス・リーグは屋内の専用スタジアムを使っている(そのため天井にボールが当たれば相手チームのスローインで再開)。スタジアムの名は「クプラ・アレーナ」でバルセロナにあり、リーグ戦の全試合(12チーム×総当たり11試合=計132試合)はこの唯一のグラウンドで、毎節日曜日の午後に6試合が順にキックオフされる。

 重要キーワードの1つは「スピーディ」。

 前後半20分ハーフでハーフタイムが3分。選手交代はプレー中でも自由に無制限に行われ、VARの間もケガ人の治療中も時計は止まらない(治療中は別の選手を入れることができる)。時間稼ぎは厳重に罰せされることもあり、ロスタイムはせいぜい1、2分といったところ。なので、前の試合のキックオフから次の試合のキックオフまで、ほぼ1時間刻みで次々と消化されていく。6時間もあれば1節が終了する仕組みだ。

 これは試合時間90分、ハーフタイムとロスタイムを入れれば2時間コースという伝統的サッカーの長さに耐えられない若者向けの仕様である。

 プレーのレベルは高くない。

7月16日に行われたキングス・リーグ第11節のゴール集

 選手は主にバルセロナのあるカタルーニャ地方の下部カテゴリーの11人制サッカーやフットサルでプレーする選手たち。すでに終了したファーストスプリット(1月開幕、3月閉幕)のMVPが、連盟3部リーグ――ラ・リーガから数えて5部相当――に所属していた選手、と言えばレベルを想像できるだろう。

 ただし、テクニック不足は攻守の目まぐるしさでカバーされている。私が指導していた小学高学年でも敵陣の中ほどからシュートが狙える大きさのグラウンドで、大人がプレーするとどうなるか? アングルがあれば即シュート、GKやDFがブロックしボールを奪い返したらカウンターに出て即シュート、と両チームが攻め合う展開になる。ゴールチャンスが次々と訪れるのはスリリングで、テクニック不足によるミスは気にならなくなるのである。

 攻撃の主体はパスではなくドリブルだ。味方が動いてパスコースを作るのを待つよりも、自分がドリブルで抜いた方が手っ取り早い。グラウンドが狭くすぐに対応されてしまうので、もたもた攻めている時間はない。パスでギャップを作るとか、サイドチェンジとか、バックパスで作り直し、なんて時間がかかるプレーは優先順位が低くなる。単独プレーでもいい。とにかく速く攻め切ってシュートで終わることが得点への最短距離になる。

 戦術的にはカウンターが最強である。男子(キングズ・リーグ)と女子(クイーンズ・リーグ)の両方の試合を見たが、特に男子は[4-2]で後ろに人数を割いてカウンターをうかがうチームばかりだった。敵陣では相手に自由にボールを持たせ、自陣に侵入されたら迎えに行き、積極的にプレスをするのは味方ゴール前のみ。チームの重心が後ろにあったとしてもグラウンドが狭いので、すぐに相手ゴール前に殺到することができる。

 マークは基本的にはマンツーマン(自陣ではきっちりつく)で、マークを外せば絶対的なチャンスになるので、1対1で突っかけるのが攻撃側の最も重要な個人戦術となる。マークが外れると即シュートを打たれて、カバーリングはほぼ間に合わない。だから守備側は敵陣を無人にしてでも味方ゴール前だけは数的有利で守る。

 そもそも大人の男の7人制サッカーには「戦術」という側面が薄い。複数の選手が協力し合った連係プレーで何かを成し遂げる時間が、攻守ともに存在しないからだ。抜かれた方はカバーリングの暇がない。抜いた方はコースがあるうちに打った方がいい。いずれにしてもチームメイトのサポートを待つ時間がもったいない。1対1に勝利した方が圧倒的に有利で、7人対7人のサッカーというよりも、1対1が7組ある感じに近い。

 私が小学生を指導していた時はこんなことを感じたことはなかった。1対1の集まりではなく、7人を1つのチーム、ブロックとしてとらえて、ちゃんと配置とポジションを決め、それぞれに役割を与えていた。システム[2-3-1]でラインごとにDF-MF-FWと命名し、お前はDF、お前はMFと各自にポジションを与えて、試合中に左右のサイドを入れ替えろとか、1列上がってMF化しろとか下がってDF化しろとかポジションと役割の変更を指示していた。そうやって子供たちに複数のポジションと役割があり、1人で何通りかのポジションと役割をできるようにすることを目標としていた。

 連係プレーのパターンもあって、GKからCBへボール出しをさせて、相手のプレスをかわしそこからMFを経由していかにFWにボールを運ぶかを練習させていた。

 だが、キングス・リーグではそんなシンプルな仕掛けさえ不要に見えた。3列なんて必要ない。[4-2]とか[3-3]とか2列で十分。攻めも守りも、前後左右の2人が絡む最低限の約束事だけを決めておけば、後は各々の本能とか勘とか経験とか運動量とかだけで解決できる。というかするしかない。要は、ポジショニングのミスに代表される戦術ミスは走ってカバーすれば良い、という考え方だ。

女子の『クイーンズ・リーグ』との違い

 ただこの点、女子の方は体力任せ、というわけにもいかないからなのか、戦術もカウンター狙い一本槍ではなく前からプレスにはめに行くチームもあったし、3列のラインの[2-3-1]や[1-3-2]のチームもあった。総じて、女子の方が戦術的な工夫をしていたし、ショートパスの連係で崩そうという意図も男子よりは見え、ゴールに向かう意識が強かったので試合も面白かった。

 男子はフィジカルなぶつかり合いも多く、窮地に陥ればロングボールを送るし、バックパスも使って時間を使うなど、より11人制サッカーに近いプレーをしていた。戦術的に男子の方が上、という見方もできるし、女子の方が攻防がスピーディで面白い、とも言える。いずれにせよ、男子の方はグラウンドが狭すぎて窮屈そうで、体を持て余している感じ。女子にはピッタリのサイズだと感じた。

7月15日に行われたクイーンズ・リーグ第11節のゴール集

 セットプレーは男子も女子もお粗末だった。

 大人が投げれば敵陣でのすべてのスローインはCKと同等の脅威になるはずだが、トリックプレーなどなく漫然と投げているように見えた。FKもせいぜい横へ出して壁を避けて蹴るくらい。

 もしかすると、全体練習自体が不足しているのかもしれない。いったいキングス・リーグのチームはいつ、どこで、どのくらい練習しているのか?……

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キングス・リーグジェラール・ピケ

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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