明治安田生命J1リーグ第21節、横浜F・マリノス対川崎フロンターレの「BIG神奈川ダービー」。近年のJリーグの戦術トレンドをリードしてきた両雄の激突だけに、試合のポイントを掘り下げた戦術分析記事を舩木記者にお願いしたのだが、現地取材した彼がフォーカスしたのは「メンタリティ」の部分だった。
この原稿は横浜F・マリノスと川崎フロンターレによる「BIG神奈川ダービー」の試合内容や戦術的駆け引きなどについて書いてほしいということで依頼を受けた。だが、最初に戦術ではなく「メンタリティ」の部分に触れることをご容赦いただきたい。
フロンターレ戦前日の練習後、マリノスのGK一森純はこんなことを話していた。
「もう練習がすべてだと思っていて。ああいうことがホンマに練習で出ていたので。緩さだったり、ぬるさだったり。そこに尽きると思います」
これは最近増えていた前後半立ち上がりの失点について問われた際の答えだった。少し前からチーム全体にほんのりと漂う「緩さ」や「ぬるさ」について警鐘を鳴らしていた守護神は、さらに続ける。
「僕が加入する前のマリノスは、技術や戦術もそうですけど、やっぱり切り替えや球際、運動量が凄まじかった。まずそこありきのサッカーなので、少しずつ緩んできてサッカーの本質的な部分ができていないのに、技術や戦術的なものを語ろうとしても、何も話が進まない。まずは戦うという部分を全面的にやらないと。そこから技術や戦術の話なので、そういうところを練習からしっかりやっていきたいと思います。意識すれば誰でもできること、すぐにでも変えられることですけど、普段の練習からどれだけできているかというのがすごく重要なポイントになると思います」
今季開幕後に加入して定位置をつかんだ一森は、フロンターレ戦に向けて「一瞬でやられる」という危機感を抱いていた。「90分を通して、1つ油断したところでやられたらゲームが終わっちゃうくらいの気持ちでやらないといけないですし、集中力がポイントになるかなと思います」という彼の言葉をヒントに、ここからは改めて「BIG神奈川ダービー」の中身を見ていきたい。
「出口」の4人へのマンツーマンを選択したフロンターレ
試合結果は0-1でフロンターレの勝利となった。
今季初めて4万人を超える観客が詰めかけた日産スタジアムで、ホームのマリノスは敗戦。後半アディショナルタイムの94分に車屋紳太郎がゴールネットを揺らし、フロンターレに逆転優勝の望みをつなぐ勝ち点3をもたらした。
最終盤までスコアが動かなかったが、序盤から一瞬も目を離せないエキサイティングな戦いが続いた。マリノスもフロンターレも攻撃面で自分たちの強みを前面に押し出そうという意識が非常に強く、リーグ屈指の破壊力を誇る両チームが真正面からぶつかりあったのである。
一方で守備陣はお互いに難しい対応を強いられた。
マリノスはフロンターレのボールを奪った後の「1本目のパス」から積極的にプレスをかけていくが、中盤アンカーを捕まえ切れず、ジョアン・シミッチを起点にした展開に規制をかけられない。そして、右ウイングの家長昭博へボールが渡ると、フロンターレの攻撃は一気に加速する。「家長選手がすごく嫌なところに残っている」と一森が語ったように、守備のリスク管理は綱渡りだった。
その中でマリノスはアンデルソン・ロペスが「1本目のパス」を狙い、マルコス・ジュニオールがシミッチを監視、両ウイングが外からCBに寄せるといったように、基本的なプレスのかけ方を変えた。……
Profile
舩木 渉
1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。