W杯早期敗退から13年。U-21欧州制覇で実を結んだイングランドの育成改革
6月21日から7月8日にかけて開催されたU-21欧州選手権で頂点に立ったイングランド代表。20大会ぶりにヨーロッパ王者へと返り咲いた理由を、ロンドン在住の山中忍氏に探ってもらった。
運は決勝のみ。無失点全勝のタレント軍団
イングランドが、優勝の最右翼と目されたスペインを下して(1-0)欧州の頂点に立った。その決勝戦に至る過程では、タイトル防衛を狙っていたドイツをグループステージ敗退に追いやりもした(2-0)。ご承知の通り、去る7月8日に閉幕したU-21欧州選手権での話ではある。しかしながら、育成年代の国際大会優勝は、言わばサッカー界という括りでのイングランドの勝利。共同開催国となったルーマニアとジョージアで手にした真のトロフィーは、1984年以来となる通算3度目の同大会優勝を、無失点の6戦全勝で成し遂げた若きタレントたち自身だ。
母国では地上波のテレビ局『チャンネル4』で生中継された決勝戦だけを見れば、運に恵まれた結果だと思われても仕方はない。ボール支配率が6割を超えたスペインは、どの対戦相手よりも強敵だった。イングランドはカウンターでの攻撃を意識し、セットプレーに勝機を見出さざるを得なかった。勝敗を分けた前半1点は、コール・パルマー(マンチェスターC)のフリーキックが壁に入っていたカーティス・ジョーンズ(リバプール)の背中に当たり、セーブの効かないゴール右下隅へとコースを変えたものだった。
だが、6試合を通して眺めれば、イングランドは出場16チーム中のベストチームだったと言って差し支えないだろう。UEFA選定の大会ベストイレブンにも6人が名を連ねている。最優秀選手に選ばれたアンソニー・ゴードン(ニューカッスル)はクラブではウインガーだが、前線中央から相手ゴールを脅かし続けた。ジョーンズは、献身性と創造性を持ち合わせるセンターハーフとしての姿を披露。最終ライン中央では、リーダーシップも光るテイラー・ハーウッド・ベリス(マンチェスターC)と、攻守に空陸両用のレビィ・コルウィル(チェルシー)が、大会最強と言える現代風CBコンビを結成した。ジェームズ・ガーナー(エバートン)は、本来の持ち場である中盤中央ではなく、右SBとして5試合で先発しての選出。守護神のジェームズ・トラッフォード(マンチェスターC)は、個人的にグループステージ第1節前半のチェコ先制阻止で始まった今大会を、スペインがPKを得た決勝戦終了間際の2連続セーブで締め括った。
彼らの他にも、「10番」タイプでありながらストライカー起用に応えたモーガン・ギブス・ホワイト(ノッティンガム・フォレスト)が、国内メディアで「時の人」と呼ばれる活躍を見せるなど、リー・カーズリーに率いられた優勝チームには、集団としての一体感と個のクオリティ、そして心身両面での強さとサッカー頭脳の聡明さが共存していた。言い換えれば、イングランドでは10年前、いや5年前でも考えられなかったU—21代表チーム。今夏の成功は、その背景に2012年に長期計画で始まった国内育成界の抜本改革があるからだ。
改革の出発点はサウスゲイトの疑問
イングランドFA(サッカー協会)主導の一大変化は、名将ファビオ・カペッロを代表監督に迎えていながらの2010年W杯早期敗退がきっかけとなっていた。スペインが、EURO2008優勝に続いて史上初のW杯優勝を達成した南ア大会。イングランドは、ドイツとの16強対決で足元の精度と戦術理解の両面で差を見せつけられ、大量4失点で姿を消した。当然と言えば当然だが、前年のU-21欧州選手権でもドイツに4点を奪われて敗れている。同大会での前回決勝進出に当たる一戦だったが、メスト・エジルが1ゴールを含む3得点に絡んだ敵に太刀打ちできなかった。スペインはというと、U-21代表も2011年の欧州選手権で戴冠の運びとなるのだった。
当時、エリート育成部門の責任者としてFAに雇われていた人物がガレス・サウスゲイト。2013年にU-21代表監督となり、16年からはA代表を率いることになるサウスゲイトは、「イングランドが、欧州大陸や南米のような技術を持つ若手を育てられない原因はどこにあるのか?」という疑問に突き動かされながら、母国の育成環境に関する報告書をしたためている。プレミアリーグにおいて、1軍登録メンバーに一定数の国内育成選手が求められる「ホームグロウン・ルール」導入を見たのは2010-11シーズン。12年には、指導者の質を高め、アカデミー生の技術と頭脳の双方に関する教育内容と施設を改善するための「エリート・プレーヤー・パフォーマンス・プラン」(EPPP)も取り入れられた。結果として、少人数制でタッチ数やロングパスに制限のあるピッチでプレーするようになった当時の小学生年代に、現U-21代表メンバーたちもいた。……
Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。