7月12日、アストンビラはビジャレアルからパウ・トーレスの獲得を発表した。今夏の移籍市場では、レスターからフリーで加入したユーリ・ティーレマンスに続く即戦力の確保。1年前にもジエゴ・カルロス(←セビージャ)とブバカル・カマラ(←マルセイユ)を迎え入れた古豪は、なぜ相次いで強豪国代表クラスの実力者を射止めているのか。「AVFC Japan」として日本のアストンビラサポーター向けに情報発信している安洋一郎氏に、彼らを惹きつける壮大なプロジェクトの全貌を解き明かしてもらおう。
「クラブは素晴らしいポジションにあり、オーナーはフットボールの頂点に立つことを計画している」
これは、2016-17シーズン途中から2020-21シーズンまでをアストンビラでプレーした元ウェールズ代表DFニール・テイラーが退団の際に残した言葉だ。
彼の発言はお世辞ではない。アストンビラは“本気”でヨーロッパのトップを目指している。
オーナー陣は“BIG6“と呼ばれるマンチェスター・ユナイテッドをはじめとするプレミアリーグのビッグクラブに”追いつけ追い越せ”と5億ポンド(約915億円)近い多額の資金を投じてクラブの強化を図った。その結果、今では彼らとそう変わりない強力な組織を作り上げている。
この組織の全貌と掲げる巨大なプロジェクトを理解すれば、ティーレマンスとP.トーレスがアストンビラを新天地に選んだ理由がわかるはずだ。
経営破綻寸前の古豪を救った2人の新オーナー
クラブの成長に欠かせなかったのが、資金源となった2人の共同オーナーである。エジプトの実業家ナセフ・サウィリスの総資産は69億ドル(約9936億円)、アメリカの実業家ウェズ・イーデンスは34億ドル(約4896億円)とされており、プレミアリーグではニューカッスルとマンチェスター・シティに次ぐ資金力を誇るとも言われている(総資産は2023年現在。アメリカ『Forbes』誌を参照)。
彼らはクラブに投資することを惜しまなかった。両者は2018年夏に経営破綻寸前だった当時2部のアストンビラのオーナーに就任すると、クラブが抱えていた多額の負債を全て返済。買収が決まった直後のクラブ公式インタビューでは、「私たちはこの偉大なクラブのオーナーとしてここにいる。アストンビラを本来あるべき場所に戻すためにできる限りのことをする」と宣言した。
「本来あるべき場所」とは「イングランドを代表する強豪」のポジションである。アストンビラは1981-82シーズンにチャンピオンズカップ(現CL)を制覇、イングランドのトップリーグとFAカップを7度ずつ制覇した“古豪”として知られている。
この言葉通りオーナー陣は積極的に投資を行うのだが、チームを強化するにあたって、サッカークラブの経営ノウハウがなかった彼らは、自分たちの代わりに現場で指揮を執る優れた経営者を雇うことに決めた。その人物が2017-18シーズンまでチェルシーのマネージング・ディレクターを務めていたクリスティアン・パースロウである。
敏腕CEOが施した3つの改革で最先端のクラブへ
パースロウのCEO就任はクラブの古い体制を180度変えるきっかけとなった。
第一にリバプールとチェルシーでクラブのトップに近い要職を務めた人物が、当時2部のCEOに就任することは異例の人事だった。パースロウも最初はオファーを拒んだそうだが、オーナー陣の野心と熱意に心を動かされてプロジェクトに参画することを決断した。
彼はCEO就任直後から組織改革に着手し、リバプールとチェルシーで培ったノウハウを惜しみなく発揮。“時代遅れ”だった古いチームは、一気に最先端のクラブへと変革を遂げた。彼が行った代表的な3つの改革を紹介する。……
Profile
安 洋一郎
1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。中学生の頃よりアストン・ヴィラを応援しており、クラブ公式サポーターズクラブ『AVFC Japan』を複数名で運営。プレミアリーグからEFLまでイングランドのフットボールを幅広く追っている。