J3での10年目を迎えた2023シーズン、第17節時点で15位に沈んでいるAC長野パルセイロ。苦戦を強いられる一方で、第10節では宿敵・松本山雅FCにJリーグ初勝利を収めシーズン2度目の首位浮上を果たすなど、クラブ史に残る記録が生まれてきたのも事実だ。この“ジェットコースター”のような半年間を番記者・田中紘夢氏と振り返ってみよう。
クラブ史に残る信州ダービー2連勝
J3のオリジナルイレブンの一つであるAC長野パルセイロは、同リーグで10年目を迎えた。今季は歴代最多の20チームがしのぎを削る中、開幕前にシュタルフ悠紀監督は「過去最強のチームを作らないといけない」と気を引き締めた。それに呼応するかのように、フロントも一体となって現場をサポートしている。
第17節終了時点で15位と、順位こそ厳しい状況にあるが、この半年間では多くの歴史が塗り替えられた。その筆頭として挙げられるのは、松本山雅FCとの信州ダービーにおける2連勝だ。
地域リーグ時代から相対し、激戦を繰り広げてきた両雄だが、2011年から昨季までは公式戦での対戦がなかった。昨季は11年ぶりとなる同カテゴリーに所属し、天皇杯長野県予選決勝も含めて3度にわたって対戦。長野としては1分2敗の未勝利に終わると、順位でも松本を下回り、ライバルの壁を高く感じる1年だった。
その悔しさを踏まえて臨む今季。第7節終了時点で首位に立つなど、好調なスタートを切る中で信州ダービーを迎えた。まずはリーグ戦での対決の前週に、天皇杯長野県予選決勝で激突。敵地・サンプロアルウィンに乗り込み、PK戦の末に競り勝って15年ぶりのダービー勝利を挙げた。
長野は10日間で行われた3連戦の2試合目ということもあり、リーグ前節からメンバーを10人変更。フィールドプレーヤーを全員入れ替え、“1.5軍”と言える松本の面々に立ち向かった。序盤からダービーらしくインテンシティあふれる戦いが繰り広げられ、65分に長野が先制するも、直後の68分に松本が追いつく一進一退の攻防。全体的に見れば長野が優勢に進めたが、延長戦でも決着がつかず、PK戦に突入した。GK金珉浩がファインセーブを見せると、長野の 5人目は昨季まで4年間松本に在籍していた大野佑哉。松本のゴール裏から大ブーイングを浴びながらも、笑顔でペナルティスポットに向かうと、余裕綽々とゴールど真ん中に沈めてみせた。
“前哨戦”を辛くも制し、翌週に迎えた“本番”。リーグ第10節では、ホーム・長野Uスタジアムに1万2458人の観衆が集い、2-1と勝利した。前後半に1点ずつを奪うと、後半アディショナルタイムにGKのファンブルから1失点こそ喫したが、チャンスらしいチャンスを与えずに“完勝”と言える内容だった。
「ALL NAGANOでつかんだ歴史的勝利。本当に選手が誇らしいし、サポーターも誇らしい」とシュタルフ監督が言えば、キャプテンの秋山拓也も「県決勝の勝ちが自分たちにすごく力をくれた」と話す。15年ぶりのダービー勝利と、Jリーグでのダービー初勝利。まさに指揮官が掲げる『ONE TEAM』で手にした、クラブ史に残る2連勝だ。
10年越しの想い。待望の大型ラッピングバス完成
本番当日には、歴史的勝利を後押しする“サプライズ”もあった。サポーターがいつも通りにバス待ちを行う中で、大型ラッピングバスが初披露されたのだ。これまでは選手たちがマイクロバスに乗って会場入りしていたが、試合2日前にクラブカラーであるオレンジに彩られた車が完成。サポーターの一際大きな歓声で迎え入れられた。……
Profile
田中 紘夢
東京都小平市出身。高校時代は開志学園JSC高(新潟)でプレー。大学時代はフリースタイルフットボールに明け暮れたほか、インターンとしてスポーツメディアの運営にも参画。卒業後はフリーのライターとして活動し、2021年からAC長野パルセイロの番記者を担当。長野県のアマチュアサッカーも広く追っている。