浦和の明本考浩はなぜ、あれだけ複数ポジションを柔軟にプレーすることができるのか? あの適応力の高さはどこから来るのか? 明本が長く所属した栃木SCアカデミー時代の恩師、栃木SCアカデミーヘッドオブコーチング兼U-15監督の花輪浩之さんに当時を振り返ってもらい、明本が持っているものに迫った。
何でも器用に適応できてしまうのはなぜか?
正直、驚いている。想像以上に適応していてびっくりしている。
明本考浩についてだ。J1浦和でユーティリティに振る舞いつつ、まさかサイドバックを主戦にすると思わなかった。でも、彼は難なくこなしている。
今春開催されたACL決勝ではさらに驚いた。敵地でのファーストラウンド。相手のキーマン、ミシャエウに対して立ち上がり早々にサイドをぶち抜かれてやられた。さすがにきついかと思ったが、その後、試合中に完璧にアジャストして何もやらせなかった。
なんだ、この適応力は。想像していたよりすごい。どのポジションでも自在にこなし、試合中には相手のレベルに応じてアジャストしてしまう。
私が日々取材していた栃木SC時代から明本はユーティリティなハードワーカーだと強く感じていたが、J1でもアジアでもそのまま、あれだけやれるとは。想像の斜め上をいっている。
「タカ(明本考浩)は昔から器用ですよ。それに試合から消えるというのを見たことがない」
栃木SCのスクール、ジュニア、ジュニアユース、ユース、トップチームで同期として時間を過ごした森俊貴(現J2栃木SC)の証言だ。
複数のポジションをこなせるユーティリティ性、あの適応力の高さ、その源泉はどこにあるのか。今回、探ってみようと栃木SCアカデミーで4年間、明本を指導した恩師に話を聞いた。
現在、栃木SCのアカデミーでヘッドオブコーチング兼U-15監督を担う花輪浩之さんの証言だ。
明本が常に試合に絡み続けられる大前提として、タフで、ほぼケガをしないことが一つ。
「育成のときからケガで長期離脱したことがなかったです」と花輪さん。
コロナ禍だった2020シーズンの栃木SCでは、中2日、中3日の連戦が当たり前だったが、明本は難なくハードな連戦をフルタイムでこなし、チームを牽引した。あるとき「肉離れ」で離脱したと聞いたが、わずか2日間で回復してピッチに戻ってきたときは化け物かと思った。
「ケガをしても回復力がすごいんです」
それだけに今、浦和でケガで離脱していると聞いて驚いている。非常に珍しいことが起きているし、彼にとってサッカー人生で初めての経験だろうが、貴重な時間になるに違いない。
「アカデミー時代にへこたれている様子を見せたことがなかった。ジュニアでもジュニアユースでもキャプテンを担い、責任感があり、弱音も吐かなかったです」
指導者として、明本をキャプテンにしたいと思わせる理由があったという。
「仲間に声を掛けられるんです。自分のことだけではなく『やろうぜ』『大丈夫だよ』と励ます声を掛けられる」
実は、ジュニアのときは前出の森俊貴と犬猿の仲だった。
「ジュニアのときは(森)俊貴とほとんどしゃべらないし、二人の間にはパスの行き来もなかったんです。ピッチ外でも交流がなかった。でも、本当に仲が悪いんじゃなくてライバルとして意識し合っていたんだと思います。それではチームとしてうまくいかないから、あるとき『一体感を持ってやりなさい』と咎めて、しばらくしたら仲良くなっていました」
のちにプロになる二人だ。認め合う関係だったのだ。……
Profile
鈴木 康浩
1978年、栃木県生まれ。ライター・編集者。サッカー書籍の構成・編集は30作以上。松田浩氏との共著に『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』がある。普段は『EL GOLAZO』やWEBマガジン『栃木フットボールマガジン』で栃木SCの日々の記録に明け暮れる。YouTubeのJ論ライブ『J2バスターズ』にも出演中。