第18節を終えていよいよ後半戦に突入した2023シーズンのJ1リーグで優勝争いを牽引する、前季王者の横浜F・マリノス。その代名詞である流れるような美しい崩しの秘密「不等辺三角形」と「バックカット」を、明晰なプレー分析でお馴染みのfootballhack氏が解説する。
ディフェンディングチャンピオンとして2023シーズンのJ1に挑んでいる横浜F・マリノスは、今季も前半戦17試合を終えて首位に立つなど好調だ。後ろから繋いでいくスタイルは変わらず、日本で先駆けて偽サイドバックを取り入れてきたマリノスの戦術で今まさに成熟期を迎えているのは、崩しでの小さな隙間にコンビネーションで割って入るプレー。ポジショナルプレーの志向からスタートしたチームビルディングが、局面においてはリレーショニズムを取り入れることで、相手チームが守ることが困難になってきているのだ。その一端を今回は解説していきたい。
マリノスのボール保持の基本はポジショナルプレー的なバランスの良い配置である。位置的な優位性を確保した上で、そのバランスを少し傾けてかき混ぜるような選手の移動、あるいは相手のプレスを引きつけるためのポストプレーによって、小さなズレを引き起こし、そこで生まれた小さなスペースに選手がなだれ込むことで、一気に崩しへと向かう。ポジショナルプレーからリレーショニズムへの遷移が非常に巧みなのだ。
パスの優先順位を生み出す「不等辺三角形」
バランスの良い配置からいかにして小さなスペースを生み出すか。わかりやすいのはマリノスの選手が作り出す「不等辺三角形」だ。
図1aでは1からパスが送られた2の選手の前方に3aと3bという2選手が立ち「トライアングル」を形成している。指導現場でもよく使われるキーワードだが、実際の試合ではボールホルダーに対してバランスの良い二等辺三角形を作るだけでは、安定してボールを前進させることができない。2の選手がボールを持った時、パスの選択肢に優先順位が生まれないからだ。
そこで図1bのように3aと3bの選手が互い違いに前後移動することで、三角形の頂点を動かして段差を作る。すると図1cの通り不等辺三角形が形成され、2の選手にとってみるとパスの選択肢に優先順位が生まれる。離れた3aへのパスがよりゴールに近づく選択肢になるので、DFは3aへのパスを優先的に防ごうとする一方、寄った3bへのパスはある程度許容することになる。このように三角形の頂点に段差をつけると、優先順位が変化するため守備側の対応に迷いが生じる。その反応を見て最適な選択肢を選べばいいので2の選手の判断における負荷は低減する。すなわちミスをする確率が格段に下がるので、ボールポゼッションが安定するわけだ。そして発生するのが、図1dのように3aの手前と3bの奥にある小さなスペース。
そこへ下図2eのようにドリブルやワンツーなどで侵入したり、そこをチームメイトに使わせることで突破の糸口にする。
細かいコンビネーションプレーからリレーショニズムへ移行し、崩しを加速させるのがマリノスのポゼッションの基本で、J1第6節セレッソ大阪戦ではまさにこの形で左サイドを突破してオウンゴールを誘発している(上動画5:31~)。……
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footballhack
社会人サッカーと独自の観戦術を掛け合わせて、グラスルーツレベルの選手や指導者に向けて技術論や戦術論を発信しているブログ「footballhack.jp」の管理人。自著に『サッカー ドリブル 懐理論』『4-4-2 ゾーンディフェンス セオリー編』『4-4-2 ゾーンディフェンス トレーニング編』『8人制サッカーの戦術』がある。すべてKindle版で配信中。