ウルグアイが描いた世界一への物語。U-20W杯のトレンド分析&ベストイレブン選出
ウルグアイの初優勝で6月11日に幕を閉じたU-20W杯。世界の若年層ではどういったタレントが好んで起用され、どういった変化が見られるのか。未来のサッカーを占うためのエッセンスが散りばめられている52試合すべての映像を見た竹内達也記者に、大会全体のトレンド分析とグループステージに続くベストイレブン選出をお願いした。
「W杯で勝つ」チームだったウルグアイ
コロナ禍による大会中止という異例のブランクを経て、4年ぶりの開催に至ったU-20W杯が5月20日から6月11日にかけてアルゼンチンで行われた。
大会直前にはホスト国のインドネシアが突然の開催辞退を表明するなど、ドタバタ劇は最後まで続いたが、南米予選敗退からの逆転復活出場を目論んだアルゼンチンでの代替開催が決定。4会場で52試合開催という強行スケジュールになったものの、開幕してからは運営上の致命的トラブルもなく全日程を終えた。
決勝戦ではウルグアイがイタリアをさすがの試合運びで下し、初優勝という形で閉幕。大会を通じて彼らを追随できるクオリティを誇ったチームは他になく、おおむね順当に進んだトーナメントだったと言える。勝因には様々なものが挙げられるだろうが、総じて言えば「W杯で勝つための戦略」が最も整ったチームだったということだろう。
まず何より際立ったのは、数年後には欧州トップリーグでプレーしているであろう複数のタレントの存在だ。詳しくは後述のベストイレブンで触れるが、点取り屋(あえてこう表現してみたい)、ボランチ、SBという各国が簡単に陣容をそろえられないポジションにおいて、異質なプレーヤーを複数そろえていたことがピッチ上のクオリティの違いを生んでいた。
また大会中には負傷者や出場停止といったアクシデントもつきものだが、負傷離脱したエースの代役FWがラウンド16から3試合連続でゴールを決めたり、本職ボランチの選手が最後は右SBの主力を務めていたりと、軽々と埋められる選手層も完備。またその配置転換を可能にするための必須要素とも言える、起用選手に応じてマイナーチェンジできる戦術的弾力性も兼ね備えていた。
そして最も強調したいのは1対1のバトルで相手を上回る個人能力、しかもそれを90分間発揮できるカルチャーがチーム全体に広がっていたことだ。日本サッカー協会(JFA)の反町康治技術委員長は大会後、日本の課題について「ライト級の選手では勝てない」とバッサリと口にしていたが、全52試合を画面越しに見ながら上位国との差を突きつけられ続けた身としても、究極的にはその結論に行き着くのは致し方ないという正直な感想だ。
国を巻き込むストーリーテリング
また「W杯で勝つための戦略」に加え、もう1つ重要な観点がある。ざっくりと言えば、「国を巻き込む物語」の力だ。ウルグアイは今回、隣国での開催ということもあり、サポーターが大挙してスタジアムに詰めかけ、その数は勝ち上がるごとに増えていった。母国でも同様の注目が集まっていたようだが、選手たちが国を背負う使命を感じるにあたり、サポーターの存在は欠かせない。
またサポーターだけでなく、イスラエルとの準決勝では2017年大会でシルバーボールを受賞したMFフェデリコ・バルベルデ(レアル・マドリー)までスタジアムに登場。隣では同大会で異彩を放ったドリブラーであるFWニコラス・デ・ラ・クルス(リーベルプレート)が並んで観戦していたことも当時を知る身として感慨深かったが、こうした身近で圧倒的なロールモデルから応援されているとなれば、ピッチ上の選手たちも燃えないはずがない。
さらにレジェンド関連で言えば、ラウンド16で不運なヒジ打ちによって一発退場処分を下されたFWルシアーノ・ロドリゲス(リーベルプール)に対し、かつて世界舞台で同様の体験をしたFWルイス・スアレス(グレミオ)がInstagramのコメント欄で激励するというイベントが起きたことも興味深かった。しかもそのルシアーノは2試合出場停止明けの末、決勝戦に先発出場。スアレスの“因縁”にあたるイタリアから劇的な決勝点を決め、見事に仇を取るという見事な筋書きまで描いた。
「W杯で勝つための戦略」と「国を巻き込む物語」。それらを兼ね備えたチームが頂点に立つというシナリオは、カタールW杯でのアルゼンチンにも通じるところがあった。
多重タスク者というトレンド
その一方で個人に目を向けると、数年の間に生まれた選手で構成される世代別代表において、W杯スターのリオネル・メッシ(インテル・マイアミ)やキリアン・ムバッペ(パリSG)のような傑物がそう簡単にいるわけではない(1試合で9ゴールを決める中堅国のスーパーエースが現れたりするなら話は別だが……)。むしろ目立ったのはメッシやムバッペを周囲で支えていたような存在、すなわちチームを勝たせるために過重ともいえるタスクを担えるマルチロールだ。
攻撃の起点とスコアラーを担うFW、点も取れるセントラルハーフ、強度と攻撃性を兼ね備えるSB、守備力だけでなく配球力も標準装備のCBとGKは、結果を出したチームに幅広く見られた。またそうしたマルチロールの実現には、一定水準以上の高いフィジカル能力を兼ね備えていなければならないことも(主に日本目線で)突きつけられた。
前置きがだいぶ長くなってしまったが、今回のベストイレブンはそうした観点から選出してみた。それぞれのポジションごとに今大会のトレンドを整理しつつ、紹介していきたい。
FW:ウイング受難、際立つパワー系FW
グループステージのベストイレブン記事では「今大会は注目のウインガーだけで11人挙げられるのではないかというほど各国の人材が豊富」と記したが、ノックアウトステージから見始めた人には「お前は何を言っているんだ」と思われたかもしれない。実際、各国のウイング勢は大会が進むごとに存在感を失い、振り返れば“ウイング受難”の大会だったとさえ言える。……
Profile
竹内 達也
元地方紙のゲキサカ記者。大分県豊後高田市出身。主に日本代表、Jリーグ、育成年代の大会を取材しています。関心分野はVARを中心とした競技規則と日向坂46。欧州サッカーではFulham FC推し。かつて書いていた仏教アイドルについての記事を超えられるようなインパクトのある成果を出すべく精進いたします。『2050年W杯 日本代表優勝プラン』編集。Twitter:@thetheteatea