ペルー代表に4-1で勝利し、6月の親善試合を2連勝で締めくくった日本代表。エルサルバドル戦から過半数の6人を入れ替えて臨んだ一戦、戦術的なアプローチにどういった変化があり、その狙いは機能していたのか。『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者らいかーると氏が分析する。
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本編に入る前に、過去を振り返ってみましょう。カタールW杯アジア最終予選で日本代表に念願のボール保持をもたらした[4-3-3]は、ボール保持型のサッカーと表現することができます。ただその後、本大会でボールを保持するサッカーを本当に行うのかという戦略の問題、親善試合でボールの奪いどころとして狙われた遠藤航の問題は解決できるのかという戦術の問題、守田英正、田中碧、遠藤以外に3センターをこなせる人材がいるのかという用兵の問題と向き合ったチーム森保の結論は[4-2-3-1]への回帰でした。
[4-2-3-1]への回帰は鎌田大地の最大化と、当時は右サイドで活躍していた久保の起用を考慮したものだと報道されたことを覚えています。しかし、本大会では[4-2-3-1]はほとんど姿を消すことになり、[3-4-2-1]をベースとする配置で臨むことになります。
本大会後、ボール保持率をどげんかせんといかん!と各所から声が上がるようになりました。ボール保持率30%で大会での勝ち上がりを繰り返すことは容易ではありません。そんな声を受けてか、2023年の3月シリーズでは[4-2-3-1]が採用されました。チーム森保の歴史を振り返ってみると、[4-2-3-1]ではボール保持が困難だった過去があります。しかし、サリーダ・ラボルピアーナと偽サイドバックを添えることで、戦術的に問題解決を図りました。まるで機能しませんでしたが。
「4-2-3-1に偽SBを添えて」が機能しなかったことを受けて、この6月シリーズでは伝家の宝刀である[4-3-3]を解禁しました。エルサルバトル戦では相手が退場したこともあってやりたい放題のボール保持でしたが、ペルー戦はどのような内容になったのか。淡々と振り返っていきます。
[4-3-3]と[4-2-3-1]の違い
鎌田がスタメンに名を連ねても[4-3-3]は継続されました。数字の並びなど電話番号じゃないんだからと言われますが、森保式の[4-2-3-1]と[4-3-3]は明確な違いを持っています。最も大きな差が、“ビルドアップ隊とフィニッシャー隊を行ったり来たりすることを許すかどうか”にあります。[4-3-3]のインサイドハーフで起用された選手は、相手ブロックの内と外を散歩するように行ったり来たりします。この移動によって、ポジションチェンジのきっかけになったり、ビルドアップの出口となったりと多彩な役割をこなすことで、ボール保持の安定に努めていました。
[4-2-3-1]のトップ下はライン間に閉じ込められ、CFの選手とペアで行動することが求められ続けます。具体的に言うと、ライン間でボールを引き出す動きやCFを追い越す動きを行い、ビルドアップ隊とフィニッシャー隊の区別ははっきりする傾向にあります。なぜこのような作りになっているかは定かではありませんが、何か理由があることは間違いないでしょう。
インサイドハーフの大外への移動
3月シリーズでサリーダと偽SBの実装を行ったチーム森保が、今回は何もしないとは考えにくかったです。ただ、エルサルバトル戦で見せたSB、インサイドハーフ、ウイングによるローテーションアタックは、アジア最終予選の段階ですでに実装済みでした。
今回のペルー戦で目立ったのが、SBがボールを持った時にインサイドハーフがサイドに流れる動きでした。特に旗手怜央はこの動きを繰り返すことで、他の選手のプレーエリアの確保に努めていました。これだけ読むとインサイドハーフが大外レーン、ウイングが内側レーンへ移動するように思えるかもしれませんが、実際にはウイングの選手も大外レーンに位置することが多かったです。ウイングへのパスコース確保というよりは、遠藤や鎌田、そして古橋亨梧へのサポートの一種だったと感じました。計算違いがあったとすれば、古橋のポストプレーが不発に終わったことでしょう。
この大外レーンに移動する動きを旗手だけがやっているなら旗手の個性と閃きと言えそうですが、鎌田も繰り返し行っていたのでチームとして仕込んでいた可能性が高いです。または、インサイドハーフがサイドに流れる動きそのものが標準の作法となっている可能性も否定はできません。世界中で行う選手は多いですから。ただし、世界で見られるインサイドハーフのサイド流れは、もう少し高い位置から斜めにサイドへ下りる動きを標準としています。
ペルーのビルドアップと日本のプレッシング
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。