第9節時点では降格圏内の17位に沈んでいたものの、翌節から19戦無敗に突入。一時は7位にまで浮上したが、残り10試合で2勝2分6敗と転落して11位で2022-23シーズンのリーグ1を終えたスタッド・ランス。即戦力として波乱万丈の1年を駆け抜けた伊東純也の大成功と課題感を、フランス現地で取材する小川由紀子さんが伝える。
22-23シーズン最終節の終了を告げるホイッスルが鳴った後、伊東純也はピッチに座り込み、しばらく動かなかった。
リーグ1最終節、ホームでのモンペリエ戦。伊東のコーナーキックが起点となってスタッド・ランスは1-0とリードして前半戦を終えたが、後半3点を返され、1-3の逆転負けに終わった。一つ下の順位にいたモンペリエとの間には勝ち点4差があったから、順位を覆されることなく11位のまま終えられたのが、唯一の救いだった。
動かずに座っていたのは、どこかケガでもしていたのだろうか?
「いや、普通にがっかりしてます。疲れたし……最後いい形で終わって、みんなホリデーに入りたかったと思うんで。そこは残念ですね……」
持てる力を出し切ったことは見ていて十分にわかるパフォーマンスだった。後半、相手に逆転されてから、チーム全体の動きがどんどん消極的になっていく中、伊東は自らのプレーでそんな彼らを奮い立たせんとばかりに、深い位置まで下がってボールを奪ってはドリブルで前へ前へと運んだ。あのフルスピードでの全力ダッシュを、ピッチの縦へ、横へと、何度も繰り返した。
「後半失点してから、なんかみんながボールを後ろに下げてたんで、前に行ってやろうと思って自分で1人で運んでいきました。若い選手が多いんで、すぐ下向くんで、そういうのはよくないかなと…」
単にチャンスを作るためだけでなく、気持ちとともに動きまで後ろ向きになっていた仲間たちをプレーで引っ張る伊東の姿から思い浮かんだのは、「孤軍奮闘」という言葉だった。
V字回復から無風へ…「経験を選んだ」終盤戦
スタッド・ランスの22-23シーズンは、起伏に富んでいた。
スタートダッシュに失敗し、最初の10試合で1勝しかできずに降格圏に沈むと、クラブはオスカル・ガルシア監督を解任。アシスタントだった30歳のウィル・スティルを後任に昇格させた。
そこからカタールW杯で中断するまでの5試合で様子を見ることになっていたが、2勝3分で無敗という好成績を収めるとフロントはスティルの続行を決定。まだ正式な監督資格を取得していないがゆえに、クラブはリーグに毎試合2万5000ユーロの罰金を払うペナルティを負いながらも、彼に采配を委ねることを決めた。
その期待にスティル新監督は結果で応え、3月19日の28節マルセイユ戦に敗れるまで、18戦無敗を継続(前任者のラストゲームを合わせると19戦)。一時は欧州カップ出場権も狙えるか、という順位までスタッド・ランスはV字回復を遂げた。
しかしその後、代表ウィークを挟んでからのラスト10戦は、また不安定な戦いぶりに逆戻り。無敗を継続していた間に張り続けていた糸がプツンと切れただけでなく、「降格の危機こそないが、欧州カップ戦出場権を狙うのは厳しい」という「無風」のポジションにいた彼らにとって、新たなモチベーションを見出すのは難しかった。
ラスト5戦は、伊東も「今週初めて見ました」というようなユースチームのティーネイジャーをスティル監督は代わる代わる投入。まったく勝算がなかったわけではもちろんないだろうが、冒頭のモンペリエ戦でも1-2からまだ同点は十分に狙える時間帯で17歳の新人を送り込むとさっそく追加点を奪われ、さらに次々とメンバーを入れ替えた挙げ句、最後はぐちゃぐちゃな展開のまま試合終了……。
伊東も試合後、「まあ、あれがうまくハマる時もあれば、やっぱりほとんどがああなるとは思いますけど……どういう狙いだったのか……。勝つのを諦めたわけではないと思いますけど、それより何か、経験っていうかそういうのを選んだんじゃないかって……」と歯切れが悪かった。この「経験」が来季に生かされることを祈るばかりだ。
伊東も歯痒い思い。もろに露呈したチームの「アラ」
一方で伊東の加入は、スタッド・ランスにとっては「大成功」だった。……
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。