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“延長番長”ここにあり! 「最も心臓に悪い試合の1つ」にも動じなかった「最高であり最強」のクロアチアがネーションズリーグ決勝へ

2023.06.16

悲願のタイトル獲得へ。UEFAネーションズリーグ準決勝で、延長戦の末にオランダ代表を下し決勝への切符をつかんだクロアチア代表。劇的な展開で見せた勝負強さには、彼らが時間をかけて積み重ねてきたものが詰まっていた。5月31日に発売された『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』の著者、長束恭行氏が綴る激闘譜。

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 「ここにいる誰もが尋常じゃない!」(Ovdje nitko nije normalan!)

 ロッテルダムのデ・カイプに2万人近く集まったクロアチアサポーターは、試合終了のホイッスルをかき消すかのように大合唱を始めた。これは昨年12月18日のカタールW杯3位の凱旋パーティーにおいて、代表チームと国民が大合唱したチャントだ。

 延長戦にもつれる激闘の末、クロアチアはネーションズリーグ準決勝で決勝ラウンド開催国のオランダを4-2で打ち破った。オランダがデ・カイプで敗れたのは実に23年ぶり(2000年10月11日/W杯予選ポルトガル戦:0-2)。相手に見せ場を作らせておいて、最後には奈落の底に落とす。そんな“どんでん返し”の舞台を「バトレニ劇場」は毎試合のように準備している。119分に万雷の拍手でサポーターに見送られた主役(マン・オブ・ザ・マッチ)のルカ・モドリッチは、“公演”を終えてこのように振り返った。

 「キャリアにおいてクレイジーな試合はたくさんプレーしてきたが、間違いなく今日の試合は最も心臓に悪いものの1つに挙げられるだろう。可能な限り最高なものを提供できた分、中立的なサッカーファンは“ドラマ”を楽しめたかもしれないね」

 クロアチアの中継局『Nova TV』でスタジオ解説を務めた元代表監督のスラベン・ビリッチは、延長戦においてバトレニ(“炎の男たち”を意味するクロアチア代表の愛称)が引き起こした現象を「デジャブ」と表現し、今の代表チームの強みを以下のように説明した。

 「現世代はこのような試合をすでに経験済みだ。コーチ陣はどのように対応すべきかを知っており、パニックを起こすこともない。CL決勝から4日しか経っていないブロゾビッチやほぼフルタイムでプレーしたモドリッチを見てくれ。どこにあんなエネルギーがあるというのか。彼らはもはや尋常じゃない」

大会前に襲いかかったマイナス材料の数々

 時計の針を大会前に戻そう。

 ネーションズリーグの決勝ラウンドに勝ち進んだ4カ国のうち、優勝への執念を一番燃やしている国がクロアチアではないだろうか。勝てば代表チームにとっての初タイトル。そして、これがモドリッチの花道を飾る代表最後の大会になるかもしれない。選手たちは昨年の凱旋パーティーで「6月に欧州王者としてここで会おう」と国民に約束し、クラブでの長いシーズンが終わった後もモチベーションを高めてきた。

 ところが、筋書き通りに物事が進まないのもクロアチアならでは、だ。事前合宿はクロアチア第3の都市リエカで行われたのだが、地元ファンに一般公開した初日(6月5日)の練習で事件が起こる。2シーズン連続で国内リーグ得点王に輝いたハイデュク・スプリトのFWマルコ・リバヤが、スタンドの男性に暴言を吐かれたことに激怒し、柵越しで口論になったのだ。ハイデュクとリエカはライバル関係にあり、しばしばリバヤがリエカのサポーター「アルマダ」を挑発していたことも伏線にあった。その翌日にリバヤはクロアチアサッカー協会を通して声明を発表し、代表チームから身を引いた。

 「起きたことのすべてを踏まえると、残念ながら私には代表チームで最大限のパフォーマンスを発揮する準備ができていないと感じた。大事な大会に向けた合宿中は平穏を保つべきだが、私はチームにとって邪魔になるだけと感じている」

サポーターと口論になるリバヤの動画。事件が起きた週はこの事件の話題で持ちきりだった

 ハイデュクを熱烈に支持するクロアチア南部で、リバヤは「全能神」のような存在だ。FW陣が手薄な代表チームではCFを任せられる貴重な人材でもある。さらに言えば、彼を常に代表招集することで、国内のサッカー界で長く燻ってきた「南北問題」を解決できるという側面もあった。それだけに、リバヤの離脱は蜂の巣をつついたような騒ぎになる。「obitelj」(家族)という言葉を代表チームのモットーとしながら、ズラトコ・ダリッチ監督や協会幹部がリバヤを全面擁護せず、「なかったこと」として穏便に済ませようとしたのも裏目に出た。最終リストの提出日はリバヤが事件を起こした6月5日で、翌日以降はケガや病気以外の選手変更が許されないことから、クロアチアは1人欠員の22人で戦うことが決まった。……

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UEFAネーションズリーグオランダ代表クロアチア代表もえるバトレニ

Profile

長束 恭行

1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。

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