フランス・リーグ1の22-23シーズンも残すところあと1試合。南野拓実が所属するASモナコは、後半戦は継続してCL出場権を狙える位置につけていたが、終盤の第32、33節でRCランス、モンペリエに2連敗を喫し、3位のRCランスから8ポイント差と大きく水を開けられてしまった。次の2試合は1勝1分で勝ち点を稼いだものの、「残り3試合に全勝しなければ可能性が消滅」という勝負どころの第36節でリヨンに敗れ(3-1)、続く第37節レンヌ戦(2-0)も落として6位に後退。トゥールーズに勝ったとしても、自力でのヨーロッパカンファレンスリーグ出場権獲得は難しいという状況で6月3日、ホームで最終節を迎える。
そして昨夏リバプールから完全移籍した南野も、ここまでリーグ戦での出場が17試合と、チャレンジングなシーズンを送っている。
欧州カップ戦とフランスカップを合わせると24試合でプレーしているが、そのうちスタメンは14試合。合計で1000分程度と、ピッチに立った時間は長くない。伊東純也のいるスタッド・ランスと対戦した昨年9月の第8節に初ゴールを記録し、1得点4アシストというのが現時点での成績だ。
先発出場も、2月5日の第22節クレルモン戦を最後に遠ざかっていたが、敵地で行われた5月7日の第34節アンジェ戦で、約3カ月ぶりに南野にチャンスがめぐってきた。
「本当に自分にとって大事な試合になるのはわかっていた」
この日は、主砲ウィサム・ベン・イェデルが前日の戦術ミーティングをすっぽかしたことにより、ペナルティとしてメンバー外になっていた。その事態も受けてフィリップ・クレマン監督は、通常の2トップから[3-4-3]の変則システムに変更。同じく今シーズン、出場機会を模索している若手FWマイロン・ボアドゥがトップで先発、左はおなじみのアレクサンドル・ゴロビン、そして右サイドに南野が抜擢されたのだった。
アンジェは今季のドアマットチームで、この時点ですでに降格も決定していたが、逆にそれで吹っ切れたのか、守備が堅いパリ・サンジェルマンやレンヌからもゴールを奪うなど、終盤戦で負けん気を発揮していた。そんな侮れない相手にモナコも苦戦していたが、前半終了間際にゴロビンが得意のミドルボレーを突き刺してゴールをこじ開けると、60分にはフランス代表MFユスフ・フォファナのパスからボアドゥが追加点。直後に1点を返されるも、1-2のリードを守って2連敗の流れを断ち切った。
序盤からボアドゥへのクロス、自らも前半だけで2度のシュートと、攻撃チャンスを創出した南野は、78分にエリス・ベン・セギルと交代して退くまでの間、アタッキングサード内を動き回り、自陣のゴールライン付近まで相手を追い詰めるなど攻守で奮戦した。
試合後、クレマン監督に南野のパフォーマンスについて感想を求めると、「入りは良かった。もう少し決定力があったら良かったが。しかし彼はトレーニングでも非常に頑張っている。よく走り、随所で良いプレーを見せている」と回答。この日、約2カ月半ぶりに先発出場したボアドゥとともに南野も「この数週間、目覚ましい進歩を見せてくれている選手の一人」であるとし、それが先発起用に繋がったと話した。
約3カ月ぶりの先発とあっては、南野も相当気合を入れて臨んだことだろう。
「そうですね。『絶対に今日勝つぞ』という気持ちはあったし、勝ちたいっていう気持ちはあったし……今日が、本当に自分にとって大事な試合になるのはわかっていたので。でもだからといって丁寧になり過ぎるのも自分らしくないし、大胆にプレーするっていうのを心がけてはいました」
シュートやクロスのチャンスはありながらも、得点には絡めず終わったことについては、「決められる状況はあったし、やっぱり何かを結果で示したかった」と悔やむ。
「前半のシュートも(16分)、イメージはあったけどジャストミートできず、『決められたな』って思うし。ボアドゥにアシストしたプレーも(13分)、チームメイトにパスして点が入らないんだったら自分でいけば良かったなと思うし。最後のやつはもうしょうがないと思うんですけど……」
「最後のやつ」というのは、右サイドをゴロビンとワンツーで展開し、南野がリターンを予測してゴール前に飛び込んだところへボアドゥも突っ込んできて、ゴールチャンスがふいになってしまった77分の場面のことだ。……
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小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。