5月14日、フェイエノールトが2試合を残して6シーズンぶりのオランダリーグ制覇を成し遂げた。アヤックス、PSVの2強が君臨するリーグで、アルネ・スロットのチームはなぜ、下馬評を覆す快進撃を見せられたのか。オランダ在住の中田徹氏がレポートする。
5月14日のゴー・アヘッド・イーグルス戦を目前に控え、「フェイエノールトはマッチポイント3です」という表現をテレビでよく見聞きした。3試合残っている中、あと勝ち点3で優勝する――というフェイエノールトの状況をテニス用語で表したのである。
前回、16-17シーズンで優勝した時のフェイエノールトは第33節のエクセルシオール戦(A)で3-0というまさかの大敗を喫し、最終節ホームでのヘラクレス戦で勝たなければならないというプレッシャーがあった(結果は3-1の勝利)。
しかし、今季は違った。
「ゴー・アヘッド・イーグルス戦で決めることができなくても、フェイエノールトの優勝は時間の問題」。そう誰もが思っていた。結果は3-0でフェイエノールトが勝利し、16度目のリーグ優勝を決めた。その翌週、エメン戦(A)を1-3で勝つと、彼らはイビザ島へ飛び立った。1試合を残し2位PSVに勝ち点10、3位アヤックスに勝ち点13もの大差をつけての独走優勝。しかもシーズン最中の祝勝旅行はさぞかし気持ちの良いものだろう。
カンファレンスリーグ準優勝から一転、まさかの「0-7」
この優勝に「正当なチャンピオン」と人々は称える。しかし「驚きの優勝」という矛盾した表現もある。今季のフェイエノールトは『0-7』という大敗からのスタートだった。
昨年7月2日のこと。コペンハーゲンのイェス・ソルプ監督(当時)は「ヨーロッパのトップクラブと試合をすれば、自分たちのチームがどの程度のレベルか推し量ることができる」と期待に胸を膨らませていた。その1カ月半前、フェイエノールトはカンファレンスリーグで準優勝したのだ。しかし、二軍で臨んだフェイエノールトはダメージコントロールすらできず、ホームで0-7の大敗を喫してしまった。
主力を休ませたから。デンマークリーグの方が開幕が早く、その分仕上がりに差があったから。そもそも所詮はプレシーズンマッチだから……。
フェイエノールトにはいくつものエクスキューズがあった。しかし、舞台裏では危機感が高まっていた。昨季の主将トールンストラ(現ユトレヒト)はロッカールームで荒れた。スロット監督は「うちのユースはまだトップに上げられる人材に乏しい」とこぼした。また、今季の主将コクチュはコペンハーゲン戦に出場しなかったが「カンファレンスリーグで成功した後、0-7で負けるチームに残ってプレーすることが賢明だろうかと考えた」と後に明かしている。
しかも、カンファレンスリーグで飛躍したことで、フェイエノールトは各クラブの草刈り場になってしまった。決勝戦のローマ戦(●0-1)で先発した11人のうち、今季も残ったのは4人(GKバイロー DFヘールトラウダ、トラウナー MFコクチュ)だけ。3トップ(ネルソン、デッサース、シニステラ)は全員チームを去った。昨夏、15人もの大量補強を行ったフェイエノールトだったが、資金力に乏しく、いずれも市場価値の低い選手ばかりだった。……
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。