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王者の対抗馬LASKリンツで奮闘中。中村敬斗を急成長させたオーストリア・ブンデスリーガの特色【現代ウイング考察】

2023.05.20

4月12日発売の『フットボリスタ2023年5月号』は、現代サッカーにおいて復権しつつある「ウイング」を大特集。その連動企画としてWEBでは、サイドを主戦場に活躍する国内外の選手にスポットを当てる。

第5回は、3月のキリンチャレンジカップで日本代表として初選出&初出場を果たした中村敬斗をピックアップ。ガンバ大阪で頭角を現して18歳で渡欧するも、オランダとベルギーのトップリーグで苦戦。そこで迎えた転機が、2021年2月のオーストリア挑戦だった。2部のジュニアーズで実力を証明すると、その提携先である1部のLASKリンツへ半年でステップアップ。今季ここまで13ゴールのチーム内得点王として古豪を上位進出へ導く急成長に至った要因を、RBザルツブルク戦を現地取材した中野吉之伴さんが分析する。

 オーストリア・ブンデスリーガ(1部)のLASKリンツでプレーする日本代表FW中村敬斗は今季ここまで13得点7アシストをマークしている。13得点は現在ランキング6位(1位は元シャルケのギド・ブルクシュタラーで19得点、RBライプツィヒ行きが決まっているベンジャミン・シェシュコは15得点で4位)、そして20スコアポイント(ゴールとアシストの合計)ではリーグ2位という数字だ。

 オーストリア国内における中村への評価は極めて高い。得点、アシストという目に見える数字で結果を出しており、試合の中で違いを生み出す選手として他クラブから最大限に警戒されている。

 取材に訪れたのは22試合のレギュラーシーズン後に行われる、優勝プレーオフ第7節RBザルツブルクとの一戦だ。オーストリア・ブンデスリーガはレギュラーシーズンを終えると、順位ごとにチームを優勝プレーオフ、ELプレーオフ、降格プレーオフに振り分ける。LASKリンツはレギュラーシーズンを3位で終え、優勝プレーオフに参加している。

まるで猛禽類。9連覇中の王者が引き上げた強度

 今季も首位を走っているリーグ9連覇中のRBザルツブルクがオーストリアサッカー界にもたらした功績は非常に大きい。インテンシティが高く、攻守の切り替えが速いサッカーをハイクオリティで展開するために、世界中から優秀な若手選手を集めている。相手チームはボールを保持して落ち着ける時間を作れないほどに、RBザルツブルクは連続したダイレクトなプレッシングで相手に襲いかかる。パススピードで気の緩みを見せたら一気に懐まで飛び込まれる。RBザルツブルクの守備はまるで猛禽類のようだ。適切な判断が難しいスピードの中でも状況を認知して、打破するプレーが求められる。このレベルについてこられない選手はミスを積み重ねるばかり。そこで終わりだ。

 そうしたRBザルツブルクのサッカーに他チームはまるでついていけず、オーストリアサッカー界において別格の存在へとなっているわけだが、少しずつ対抗できるチームが出てきているのは興味深い。今季でいえば、シュトゥルム・グラーツ(レギュラーシーズン2位、優勝プレーオフ2位)、LASKリンツはRBザルツブルクとも真っ向勝負できるだけの力を持ったチームだ。

 2015年から2019年まで指揮したオリバー・グラスナー(現フランクフルト監督)によってそのベースが築かれたLASKリンツは、RBザルツブルクが相手でも自陣に引いて守備を固めたりはしない。コンパクトな陣形から可能な限り高い位置でボールを奪おうと勇敢にアタックを仕掛けていく。攻撃陣はプレッシングを最適化するための重要なファーストディフェンダーであり、相手との距離感、プレッシングに入るタイミング、運ばれた後のポジショニング修正、プレスバックが必須のスキルとなる。

オーストリア・ブンデスリーガで絶対的な地位を築くRBザルツブルク。昨季のCLではラウンド16まで駒を進めた

カウンターを潰す場面も!球際の鋭さに表れる成長の跡

 実際に試合を見ていると、そのスピード感に驚かされる。プレッシングの応酬となる両チームは迫力満点。インテンシティの高さばかりが強調されると交錯プレーが増えてしまい、無秩序なサッカーになってしまうことも少なくないが、この一戦ではそうしたプレッシングに遭っても慌てることなく、ダイレクトプレーを巧みに挟みながら、状況を打開し、ボールを前に運ぶだけのスキルと判断力を持った選手がピッチに立っている事実に気づかされる。

 LASKリンツがそろえる選手のレベルはとても高い。その中でスタメンとして起用されるだけでなく、結果を出して中心選手として活躍している中村の価値は希少だ。……

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RBザルツブルク中村敬斗

Profile

中野 吉之伴

1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。

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