『戦術リストランテⅦ』発売記念!西部謙司のTACTICAL LIBRARY特別掲載#7
好評発売中の『戦術リストランテⅦ 「デジタル化」したサッカーの未来』は、ポジショナルプレーが象徴する「サッカーのデジタル化」をテーマにした、西部謙司による『footballista』の人気連載書籍化シリーズ第七弾だ。その発売を記念して、書籍に収録できなかった戦術コラムを特別掲載。「サッカー戦術を物語にする」西部ワールドの一端をぜひ味わってほしい。
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マルセロ・ビエルサ監督のトレーニングは有名だ。アスレティック・ビルバオを率いていた時に数日間見に行ったことがある。
ビエルサが発見した究極のサッカー公式
特徴的なのは、ほとんどの練習メニューが相手をつけないロールプレーであること。1つのメニューにかける時間が短いことの2点だった。1つのメニューに10分かけたら長い方だったと思う。
サッカーを構成している要素をいくつか(たぶん100項目ぐらい)に分解していて、その一つひとつをこなしていく。1回の練習時間では、そのうちのいくつかをやるだけなので全体像はつかめない。中には、何のためにやっているのか見当もつかないものもあった。
ともあれ、シーズン前には一通りは終わっているはずで、それが何周かする頃にはオートマティズムができ上がる。パズルを構成している1つのピースだけを見ても意味がわからないが、全体が組み上がってみると欠かせない1ピースなのだ。
紅白戦はあまりやらない。1試合で1回しか起こらないようなプレーだと、90分間でその練習は1回しかできないことになる。しかし、たとえ10分間の練習メニューでもそれを何回か行えば回数は多い。うまくなるには練習した方がいいということになる。ただ、できるまでやるという発想はなくて、試合より多く経験させればそれでいいという考え方のようだった。
組み上がった時点でのビエルサのチームは非常に勢いがある。その強度に自分たちが疲弊してしまうのか、だいたいリーグ終盤に失速するのだが、ピーク時の破壊力はリーグトップクラスだった。
ユースではなく、プロ向きのトレーニング
ただ、ビエルサ方式のトレーニングはプロ向きだと思う。実際、ビルバオのユースチームでは採り入れていなかった。答えが先に示されているメニューが多く、考える過程が省かれているからだろう。例えば、クロスボールのメニューは数パターンあったが、それぞれゴール前に置かれるDFを想定した人形の位置を変えていた。こういう形からのクロスなら、相手はこう守るはずだという設定がまずあり、その上でクロスを蹴り入れる場所と方法が決まってくる。どこに走り込み、どこで合わせるかの答えは出て、その通りにやる練習である。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。