柏レイソルが昨年から続いていた公式戦の未勝利をストップし、実に20試合ぶりとなる白星を挙げた4月9日の鹿島アントラーズ戦。その一戦でレイソルのゴールを守っていたのは、今季初出場の松本健太だった。そこから定位置を掴んだ“マツケン”は、以降も好守を連発。今では新守護神としてチームを力強く支えている。アカデミー出身の生え抜きながら、決して順風満帆とは言えないキャリアを歩んできた松本の今までと今後への期待を、鈴木潤が丁寧に紐解く。
公式戦20試合ぶりの勝利を手繰り寄せた新守護神の躍動
4月9日のJ1第7節・鹿島アントラーズを1-0で下した柏レイソルは今季初勝利を挙げた。昨季のJ1第24節・京都サンガF.C.戦以来、長らく白星から遠ざかっていた柏にとっては、実に公式戦20試合ぶりとなる勝利になった。エースの存在価値を示した細谷真大の決勝弾や、本職ではない右サイドバックで起用されたプロ2年目の土屋巧の奮闘など、勝利を呼び込んだ要因はいくつかあるが、今季初出場で出色の働きを見せたGKの松本健太の存在を忘れてはならない。
柏に絶体絶命のピンチが訪れたのは前半終了間際だった。鹿島のセットプレーで、ファーサイドでの折り返しがゴール前でフリーの鈴木優磨の足元に落ちる。松本は、至近距離から放たれた鈴木のシュートに素早く反応し、食い止めた。さらにセカンドボールを詰めにきた知念慶よりも一瞬早く、セーブ直後で体勢を崩しながら残した右足で大きく目の前のボールをクリアした。
試合後、松本はこの一連のプレーを振り返った。
「最初はクロスを狙っていましたが、自分が出ていけなかったのでしっかりポジションを取りました。折り返しのボールも目で追えていましたし、鈴木優磨選手のシュートには動きすぎずに反応して、できればキャッチをしたり、外に弾き出せればよかったと思います。弾いた場所があまりよくなかったんですが、その後は良いアクションができたと思います」
この日の活躍により、松本はスタメンの座を勝ち取ることになった。
三笘薫のPKを止めた関東大学リーグデビュー戦
松本は柏アカデミー出身の生え抜きである。3学年上には中村航輔、同期にも年代別日本代表経験のある滝本晴彦がおり、アカデミーの高いレベルの中でGKとしての実力を磨いていった。
高校3年のJFA U-18高円宮杯プレミアリーグでは、ほとんどの試合に出場したが、トップチーム昇格を手にすることはできなかった。「多くの試合に出ていたので驕りがあった。それが良くなかった」と自分自身を戒め、松本は東洋大学へ進学した。
大学ではケガもあり、2年までは出場機会に恵まれない我慢の時期が続いた。ただ、ケガをしてピッチから離れていたからこそ、松本は自分自身を見つめ直した。柏のアカデミーで培ったGKとしての技術は申し分ない。また、ジュニア時代はフィールドプレーヤーの経験もあったことから足元のプレーにも長け、ビルドアップも得意だった。
「どんなに技術があっても、その技術を発揮できる土台がないとダメだと思った」
自分の課題はフィジカル面。ケガで離れている間は、その土台づくりのため精力的に筋トレに励み、身体の強化に努めた。……
Profile
鈴木 潤
2002年のフリーライター転身後、03年から柏レイソルと国内育成年代の取材を開始。サッカー専門誌を中心に寄稿する傍ら、現在は柏レイソルのオフィシャル刊行物の執筆も手がける。14年には自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信中。酒井宏樹選手の著書『リセットする力』(KADOKAWA)編集協力。