「サリバがいれば…」以上の大きな差。多方向なシティに喫した完敗にどう向き合うか【マンチェスターC 4-1 アーセナル】
2022-23シーズンも佳境を迎えているプレミアリーグ終盤戦、最注目の大一番は4-1という衝撃の結果で終わった。2試合未消化の勝ち点5差で追走する昨季王者マンチェスター・シティを前に、敵地で首位アーセナルが完敗を喫した理由とは。“グーナー”(アーセナルファンの愛称)でマッチレビュアーのせこ氏に探ってもらった。
開始7分で破り捨てられた青写真
「今のアーセナルのベストなスタメンって何ですか?」
アーセナルファンの自分がよく聞かれる質問である。この問いはそのカジュアルさとは裏腹に答えるのが非常に難しい。というのも、対戦相手というファクターが含まれていないからだ。多くのチームにとって相手が変われば、どこで勝負できるかは変わる。
だが、強いチームであれば話は別だ。自分たちのやり方を相手に押しつけることで勝ち切る。今季のアーセナルはそのようにしてプレミアリーグを首位で駆け抜けてきた。よって、今までに比べればその質問に答えやすくなっている。自分たちの強みを最大化する方向だけで考えてもそれなりに勝つことができるからである。
かつてのマンチェスター・シティも同じ傾向にあるチームだった。だが、今の彼らはそうではない。プレミアリーグ第29節リバプール戦のような(彼らにとっては)オールドファッションなボール保持&プレッシングによる破壊も、CL準々決勝第2レグバイエルン戦のような撤退守備+ロングカウンターでの破壊もできる。今季のシティは強者でありながら相手によって戦い方を変容させることで、終盤戦での勢いを増してきている。
そんな両チームがエティハドで激突する頂上決戦において、戦い方を想定しにくいのはシティの方。彼らがどのように試合に出てくるかが序盤のポイントとなった。
アーセナルの保持に対して、シティは高い位置からボールを追いかけ回していく。デ・ブルイネは左コーナーフラッグ付近まで深さを取るガブリエウまでプレッシャーをかける。
例外は、負傷離脱中のサリバに代わってガブリエウとCBコンビを組むホールディング。彼がボールを持った時は、シティはそこからパスを受ける周りの選手を警戒する。ホールディングのビルドアップ技術によるところなのか、それともバイエルン戦でこのスペースにグリーリッシュやギュンドアンが出て行き過ぎたことで、簡単に縦パスを入れられていたことの反省なのかは不明である。
それ以外の選手がボールを持てば蹴らせてボールを回収するという二段構えのシティ。ストーンズ、ルーベン・ディアス、アカンジと屈強なDFが最終ラインに並ぶシティにとって、アーセナルのロングボール攻勢はそこまでは怖くない。低い位置からのビルドアップに手応えがないのか、序盤にひとまず長いボールを蹴ったラムズデイルの姿はアーセナルのビルドアップの苦悩をよく表している。
シティのボール保持に対するアーセナルのスタンスも強気なものだった。高い位置からボールを追いかけまわし、狭いサイドに追い込んだら囲い込んで奪う。これがアーセナルが描いた青写真だろう。相違点は捨てるべきCBがいないところだだ。
しかしながら、この青写真は開始早々にシティに破り捨てられてしまう。深い位置でボールを受けたストーンズをアーセナルはプレッシングでうまく追い込んだように思えたが、ホールディングと競り合うホーランド目がけたロングボールからポストプレーで包囲網を脱出すると、追い越したデ・ブルイネがカウンターを完結。わずか7分で先制点を奪い、アーセナルの出鼻をくじいた。
アーセナルは悪くないプレスであったが、シティはその奥にもう1つ手段を用意していたということだろう。追い込まれたら、あるいは前方のライン間にスペースがあれば、容赦無くホーランドへのロングボールを活用する。これも今のシティの強みだ。アーセナルとは異なり、ロングボールは苦し紛れではなく、能動的に活用する手段になっている。
「ブライトンっぽい」ビルドアップの狙い
また、シティは後方でのショートパス交換から左のハーフスペース付近への持ち上がりも見せる。ジェズスとウーデゴールを引き出しながら、ギュンドアンらがライン間からドリブルで前線にボールを運んでいった。
こうした芸当ができるのも、バックラインが深さを作れるシティの強みとリンクしている。個々のスキルもさることながら、アーセナルのプレス隊を縦方向に引き伸ばすことで細かいパス交換から前を向けるスペースを確保することができる。
この部分も深さを作れないホールディングを放置されてしまったことで相手を動かしにくくなったアーセナルとの相違点だ。つまり、シティはショートパスからの前進とそれが機能しなかった時の脱出手段の両面でアーセナルに差を見せつけていた。
シティの中盤やバックラインがアーセナルのプレス隊をビルドアップで引き込んだため、その振る舞いを「デ・ゼルビのブライトンっぽい」と評する意見もちらほら見られた。中盤と前線で段々構造から縦パスを引き出し、ポストプレーの受け手との縦関係を構築しながら前を向く選手を作る方向性は確かに似ている。
だが、両ウイングがCFの奥を走るところまでがセットになるのが今のブライトンのスタンス。三笘やマーチとは違い、グリーリッシュやベルナルドにはそうしたアクションはなかったため、ホーランドとデ・ブルイネという2人で完結できる選手ありきのプランだったのではないだろうか。……
Profile
せこ
野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。