シャビ・バルサに欠ける“攻めの防御”。リーグ優勝目前も心躍らない「美意識」なきフットボール
昨夏に敢行した大型補強の成果もあり、第31節終了時点で2位レアル・マドリーを11ポイント突き離してリーガ首位に立つバルセロナ。しかしCLで早々に姿を消し、ELではマンチェスター・ユナイテッドに16強入りを阻まれたシャビ体制2季目のチームは、そのリーグ戦でも直近4試合1勝2分1敗と足踏みが続いている。強固な守備を手にした一方、薄まるクラブの伝統や個性。2018-19シーズン以来の優勝を目前にしても、ファンが素直に喜べない現状について、長年バルサを追い続けるぶんた(@bunradio1)さんに綴ってもらった。
「美しく勝つ」から「確実に勝つ」へとバルセロナのフットボールが変貌している。純度の高いテクニックやコンビネーションを用いて攻撃に全フリする強い個性を抑え、弱点をさらさず隙のないソリッドな組織の集合体へと。
4月23日の第30節、アトレティコ・マドリーとの上位対決でも、硬直する睨み合いを受け入れ、時間、点差、試合の流れを的確に読み取りながら、ダイナミックかつアグレッシブに戦い、もはや貫禄すら出てきたウノゼロ(1-0)での勝利。現在リーガで最も調子が良く、機能美があり、相手にボールを持たせても精神的に優位に立てる難敵アトレティコを、エリートフットボーラーでも時には労働者になり得るという、集団として宿るエネルギーの強さで振り切ったのであった。
クリーンシート23回を記録する勝利の方程式
今シーズン、リーガを独走できている理由はひとえに取りこぼしを最小限に抑えられたことであり、その原動力は第31節を終えて11失点、ホームに限っては2失点、クリーンシート23回という驚異的な数字を叩き出している守備力にある。そして、この守備力を生かした勝利の方程式が確立されている。
まず前半45分間は、今まで通り敵陣でボールを保持しながら幾何学的な配置を取り、クローズドにジリジリと押し込む戦法である。ボールを保持しながらどのように守るかもセットにされていて、ボールを逸脱しても鋭いカウンタープレスでの回収には抜群の切れ味がある。
セットされた相手のビルドアップには、ロベルト・レバンドフスキが後方とのタイミングを合わせながら1stディフェンスをしっかり決め、素早くパスラインを消しながらプレスを仕掛ける。2度追いも辞さず、ねちっこく選択肢を削りにいく。相手がロングボールで逃げるものなら、空中戦で強さを見せる後方のCB軍団、ジュール・クンデ、ロナルド・アラウホ、アンドレアス・クリステンセンが高確率で回収して、再びボール保持へと切り替わる。この時間帯では、ボール保持とともに“ボールを奪う守備”がセットとなり、試合の主導権を握りながら先制点を奪うというのがセオリーになっている。
後半開始からは相手の戦術修正をしっかり見極めながら、前半と変わらないスタンスで戦う。そして60分以降、フットボールでは必ず起こるように中盤のスペースが空き始め、オープンになりがちな展開へと突入する。この戦況に対して15本のパスなどでコンパクトな陣形に戻し、クローズドな展開に再度仕向けるようなことはせず、オープンなまま殴り合う展開で追加点を奪いにいく。この時間帯では、スペースを利用するアタックとともにミドルゾーンから“スペースを管理する守備”がセットとなっている。ここでモノを言うのが、シャビが就任してから培われてきたアスリート能力である。
「今のバルセロナは、ボールを持っていない時に最も走っているチームなんだ」
こうキケ・セティエン(ビジャレアル監督)が発言したように、選手たちには90分通してスプリントを断続的に行いながら、そこから前へのプレッシングで飛び出し、さらにカウンターでピンチを迎えたら、70〜80mを猛ダッシュで素早く帰陣して守備ブロックに参加する能力が備わっている。
第17節ベティス戦で、オープンなカウンターを受けた危険な状態に対して、あっという間にゴール前で数的優位になった動画が驚きとともにSNSでバズったように、被カウンター時には8人が迅速に帰陣することが徹底されている。そのためカウンターアタックの質を天秤にかけると勝機が高いので、オープンな殴り合いを受け入れるのだ。
オープンな展開から試合の終焉に向かう80分あたりからは、完全に守備ブロックを下げて“ゴールを守る”ことで、試合を終わらせることが目的となる。
しかしこの時点でまだ1点差だと、相手もここぞとばかりに猛襲してくる。それをしっかりと跳ね返し、シュートすら打たせないほどの完璧な守備組織は構築できておらず、いつもしっかりとピンチも招いている。だがここでもシャビが根づかせた自己犠牲の精神で体を張り、あと一歩のところで足を出したりシュートコースを狭めたりして最後の砦を守っている。そして何度か見せる美しいマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンのセーブで胸を撫で下ろしてから試合終了の笛が鳴る。
野球でたとえると、先発、中継ぎ、抑えとピッチャーが変わるように、試合の流れを汲み取りながら「ボールを奪う」「スペースを管理する」「ゴールを守る」と守備対応を変えつつ、最後は苦しみながらもしっかりと抑えるという展開が今シーズンは本当に多かった。その中でもアウェイで劣勢を強いられた激戦では、体を張って1点差を死守してつかんだ勝利をシャビは「黄金の勝利」と言い、チームが一致団結して守り抜いて得た結果を褒め称えたのだった。
手に入れた強固な守備と失われつつある伝統
取りこぼしをほとんどしなかった勝利の方程式には、当然弊害もある。それが攻撃の質の低下と得点力不足である。特に試合前半での敵陣でボールを支配する通常通りの戦い方の質が落ちている。
ポジショナルプレーの概念の一つであるピッチを幅広く使い、ライン裏のフリーマンにボールを運ぶことを基軸にした戦い方に対して、レーンを埋めながらマンマークで対応する、“スペースも人も潰す”を連動させた守備戦術が当たり前になってきた昨今、ボール保持側にはさらなるミクロな関係性が重要になってきている。
ボールを受けた後の体の向きや、マーカーの視野と体の向きを操作するポジショニングでパスラインを引く動き、そのラインの奥にタイミング良く侵入する動き、などの思考とタイミングをシンクロさせて一つの生き物のようにプレーすること。そこにあるスペースに入り込むのではなく、瞬間的に生み出されるスペースをつかみに行く動的構造をミクロな関係で築くことが、高度化した守備組織の攻略には必須になってきている。
そういう意味では、連続スコアレスドローに終わった第28節ジローナ戦、第29節ヘタフェ戦のバルサには、相互作用したミクロな関係性による繊細なプレーや、動的にスペースをつかみに行くダイナミックな連係などというものは皆無だった。
それどころか、シーズン序盤に見受けられた配置が静的過ぎるという問題が再度発生。しかも今度は相手を引きつける動きと、その動きで空けたスペースに入り込むという基本動作も疎かになり、ピッチ上でボールだけが動く状態に陥った。この2試合でクリーンに守備ラインを越えた場面はガビが数回あったくらいだ。
ヘタフェの守備組織に対して、相手が困る状況の立ち位置を見つけられず、自分たちが選択に窮する立ち位置でバックパスでやり直すというパス回しがエンドレスに続いたバルサ。そんな破綻しかけているボール前進から無理やり崩しの局面まで持ち込んだ後のゴールへの攻め筋は、CBの大きなサイドチェンジからのクロス攻撃か、外循環のパスワークからのクロス攻撃の2択だった。そしてクロス攻撃の裏設定であるセカンドボール回収による二次攻撃が、裏じゃなくてメインであることが丸出しで、ボールを奪われた後にデザインした“小さなカオス”で攻め切る方に舵を切っているようだった。……
Profile
ぶんた
戦後プリズン・ブレイクから、男たちの抗争に疲れ果て、トラック野郎に転身。デコトラ一番星で、日本を飛び出しバルセロナへ爆走。現地で出会ったフットボールクラブに一目惚れ。現在はフットボーラー・ヘアースタイル研究のマイスターの称号を得て、リキプッチに似合うリーゼントスタイルを思案中。座右の銘は「追うもんの方が、追われるもんより強いんじゃ!」