大学不合格→トップ昇格。5年目のA代表で藤井陽也が板倉滉から学んだもの
ドイツ、スペインを撃破し日本中を熱狂の渦に巻き込んだW杯から4ヶ月が経過し、次のW杯に向けてのスタートが切られた。その初陣となった3月末の親善試合で数名の初招集者が名を連ねたが、名古屋グランパスの藤井陽也もその1人。角田涼太朗(横浜F・マリノス)の負傷による辞退を受けての追加招集であった。
昨年の2022年シーズンから主力の座を掴んだ藤井だが、名古屋グランパスU-18からトップ昇格を見送られた後に大学進学を目指すも、不合格となったため一転してトップ昇格の措置が取られた珍しい経歴を持つ。誤解を恐れずに言えば “最下層” からのスタートで、茨の道だったと言っても過言ではない。そこから4年目の昨年に一気に花を開かせA代表まで上り詰めた彼に、これまで歩みと見据える未来を聞いた。
長谷川健太監督の元で感じた変化
――藤井選手はU-18から昇格できずに大学進学を目指しましたが、不合格となったことでトップ昇格へ、となりましたよね。そういった選手がプロ5年目でA代表となるのは珍しいケースかなと。昇格後からこれまではいかがでしたか?
「トップに上がれず、早稲田へ行きたかったのですが不合格で。その結果を受けて、上げてもらった形です。プロに入った頃はなかなか試合に絡めない状況が多く続いていましたし、本当に1番下からのスタートだったので、苦しい時期が続きました。
でも、1年目の風間(八宏)さんが監督のときにメンバーに入る経験もできて、少し自信も得ることができました。ただ、そこからまた1年、2年と出られなくて……。自信を失ってしまいましたね。ただ、日々の練習には100%で取り組んできたつもりです。それで去年、やっと試合に出られるようになりました」
――1年目のルヴァン杯で試合に出た時、プレッシャーを受けながらも際どいところに縦パスを通していたのが印象的です。あのプレーを見て「すごく肝が据わっているな」と思ったので、自信がなかったというのは意外です。
「風間さんのときは自分も1年目ということもあって、もう思い切ってやるしかないという気持ちがありました。だから、そういったプレーに繋がったのかなと。いざやってみれば『意外とできるな』と思う部分もありましたが、正直に言って、自信はそこまでなかったですね」
――昨年、1年間主力として戦ってみて、得られたもの、感じた課題、試合を経験する中で成長していく面もあったと思います。そのあたりはいかがでしたか?
「やっぱり、試合に出てみないとわからない部分は多いなと。それが最も強く感じたことです。ポジティブな面で言うと、いろいろなFWと対戦することで、自分の引き出しも増えました。こういう相手にはこう対応しよう、というのは試合経験を経て得られましたね。
課題で言うと、自分は3バックの真ん中にいてクロスを跳ね返すシーンが多かったのですが、その対応ですね。どうしてもボールウォッチャーになってしまうことが多かった。相手のクロス精度も高いし、しっかり合わせられてしまうことが特に最初は多かったです。徐々に改善できていったのですが、それまでの自分は “何となく”守れていたんだなと思いましたね。身長が高かったので、ユースのときもそこまでやられることはありませんでしたし、これまでは守れたところが、何となくでは守れないということを最も強く感じました」
――長谷川健太監督は守備面でも良い意味で厳しい印象がありますが、彼の元で得られたものなのはあるのでしょうか。
「健太さんに言われて変わったのは、メンタルの部分かなと。マッシモ監督のときは、どうしても守備も攻撃もミスしないようにしなければいけない、というプレッシャーがあって。多くのことを心配してしまっていました。でも、健太さんになってよりチャレンジすることを求められたことによって、自分のプレーの幅が広がったかなと。特に、ドリブルで運ぶ選択肢も最近は試合でうまく使えていると思います」
――他にも求められている点はあるのでしょうか。
「強く要求されることは少ないんです。僕が感じる部分としては、CBとして対人の部分で止めることと、高さのところ。僕が後ろの選手の中で最も身長が高いので、そこで勝つことは求められてくるので。あとは、セットプレーで得点を取れるように、ということも去年の途中から強く言われています。それがついてくるともっといい選手になれるぞ、と。そこの意識はもっと変えていきたいなと思っています。
――シンプルに、守備力は高まったのかなと。強さを増していった印象はプロ生活を見て感じていたことでもあります。監督はじめ、先輩チームメイトの存在も大きかったのかなと。
「1年目からジョー、(ガブリエル)シャビエル、前田直輝くん、あとはクバ(ヤクブ・シュヴィルツォク)、というトップレベルの選手と練習ができていたのも大きかったのかなと。彼らは本気じゃなかったかもしれないですけど、僕は練習から毎日本気で止めてやろうと意識して取り組んでいましたし、そういった日々の練習が自分の成長に繋がったのかなと思います」
高校時代はビルドアップが武器だったが……
――今シーズンはどうでしょうか。順位的にも悪くはないのかなと思っているんですけど、ご自身の出来であったり、チームとしての感触は。
「チーム全体として守備の意識を高く持ってここまでやれていると思いますし、失点も少なく、得点も去年より取れていると思うので。チーム全体として共通意識を持ってやっていることがすごく良いなと思いますし、もっと結果を出せるとも思っています。今のところルヴァンカップを含めて好調を維持できていると思いますし、勝つことで雰囲気もすごく良くなるものなので。
でも、優勝するためにはもっともっと勝ち続けなければいけないですね。個人としては、 ルヴァンカップ含め真ん中や左をやっていますが、信頼されていると感じています。僕自身、どこでもできるのが強みだと思っているので、どこで出ても高い基準でプレーすることを意識しています」
――強みの話がありましたが、CBとして一番の武器はどこだと自覚していますか?U-18のときはビルドアップに長けた選手というイメージでした。
「ビルドアップが一番得意というか、好きでしたし、武器だとは思っていましたね。ユースで一緒にプレーをした選手もみんな、僕の武器をそう言うと思います。でも、プロに入ってからトレーニングして身体を鍛えて、足も速くなりました。身体的な部分がいまは武器になっていると思いますし、高校のときにはなかったものが、今こうやって武器だと言えるので、そういう部分を増やしていきたいと思っています」
――サイズもあって、守れて攻撃の起点にもなれる。なかなかいない素材で、貴重だと思います。恵まれている点がかなり多くある中、ご自身としてもこれらを生かして更に上にいきたいという思いもあるのではないでしょうか。
「上に行かなければいけないという気持ちはもちろんありますね。でも、僕よりもうまくて大きい人はいくらでもいると思うので。身体も恵まれているかもしれないですけど、基準をもっと上げていかないといけませんね。それは代表に参加して感じたことでもあります」
初代表では、板倉滉から刺激
――その代表の話をしたいのですが、世代別には入っていたのでしたっけ?
「U-17で1,2回ほどですね。今回の代表だと、久保建英や中村敬斗が一緒でした。あのときのメンバーは今の代表でもけっこう多いですね」
――招集をされたときは驚いたのではないでしょうか。
「そうですね。急に強化部の方から電話がかかってきて『代表に呼ばれたから明日から行ってこい』と。自分が一番驚いたと思います」
――実際に行ってみていかがでしたか?
「練習からも試合からも、レベルの高さを感じましたね。何となくですけど、自分がセンターバックで出たらどういうことが求められるのかもわかりました。競り合い、球際のバトルのシーンが多いなと感じたのですが、そこをしっかり弾き返す部分ですね。中途半端にして収められたりすると、一気にまたピンチになるので。そういった部分で跳ね返せる選手はすごく重要だというのは、普段から感じていましたけど、特に代表の試合を間近で見て思いました。“強さ”の部分をもっと身に付けないといけないと感じましたね」
――参加して、通用する部分もあったんじゃないかなと。
「フルコートでゲームをすることがなかったので難しいですけど、守備の部分、対人のところはしっかり通用するなと感じました。シュートブロックもそうですね。ただ、このレベルだと打たれないと思ったとこで打たれたりすることがあったので。寄せをもっとやらなければいけないな、という反省はあります」
――次のW杯を目指すスタートとなった中、特にディフェンス陣は若返ったなと。その中で、一緒にやってみて刺激を受けた選手、話した選手はいますか?
「板倉滉選手とは食事のときにけっこう話して、いろんなことを聞きました。プレーを見ても、弱点がないと感じたので。ビルドアップもできて守れて……という彼の姿は、自分として目指すべきところだなと思いましたね。ピッチ内外のことも、海外のことも話したのですが、滉くんも海外に行ったばかりは出られない時期もあったと言っていました。刺激に成りましたし、新鮮でしたね」
――プレー面ではどういうところをお手本にしたいと思ったのでしょうか。
「ビルドアップのところで、自分で外していく上手さあるなと思いましたし、自分にはできない部分だと感じましたね。やっぱり、ブンデスリーガで出ている選手だと違うなと。色々学びたいと思って、積極的に話しました」
グランパスアカデミーの価値を高めたい
――代表選手ほとんどヨーロッパでやっている中で、ご自身もその舞台へ行きたいという思いはあるのでしょうか。U-18の同期である菅原由勢選手が先に渡欧したのも刺激になっているのでは。
「今回、代表に選ばれて海外に行きたいという気持ちはもちろん強くなりましたし、由勢は18歳ぐらいのときに海外でプレーをして、僕よりも早くA代表にも選ばれてデビューしています。そこには追いつきたいと思っています。チャンスがあれば、海外挑戦をしたい思いはありますね」
――刺激という意味でいうと、U-18の1つ下はクラブユース、Jユースカップ、プレミアWESTの三冠を達成した黄金世代でした。彼らから受けたものもあるのかなと。
「ありましたね。僕が1年目のときにグランパスのツイッターでU-18の試合結果を見たらほとんど全部勝っていて。小学校から一緒にやっていた選手が多くて、すごく刺激を受けていましたし、今でもキャンプへの参加などで一緒にプレーしますけど、U-18出身のメンバーが増えていくのはクラブにとってもすごく良いことだと思いますし、そういった選手たちが結果を出して、グランパスのアカデミーの価値をもっと高めていけたらいいなと思っています」
――アカデミー出身者といえば吉田麻也さんがいますが、彼は長崎出身ですよね。藤井選手は愛知出身でグランパスのスクール時代からU-12、U-15、U-18とグランパス一筋ですし、そこの思いを背負っていきたいという思いもあるのではないでしょうか。最後にそこの点を聞かせてください。
「グランパスサポーターからの期待の大きさはすごく感じます。グランパスで結果を出して、しっかり海外に行きたいとも思いますし、グランパスU-12、U-15、U-18の選手の目標となれるような選手になりたいですね。目標としては、去年は試合に出られましたけど、出るだけでなくてタイトルがほしいです。
一昨年にルヴァン杯で優勝しましたけど、その決勝の舞台でもベンチ外だったので、優勝したのは嬉しかった一方で実感はあまり沸かなかったんです。正直に言って、自分が何も貢献できていなかったので。そういう意味では、まだ、何一つグランパスへの恩返しができていません。だからこそ今年こそは、自分がしっかり貢献してタイトルを取りたいと思います」
Photos: Getty Images
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Profile
竹中 玲央奈
“現場主義”を貫く1989年生まれのロンドン世代。大学在学時に風間八宏率いる筑波大学に魅せられ取材活動を開始。2012年から2016年までサッカー専門誌『エル・ゴラッソ 』で湘南と川崎Fを担当し、以後は大学サッカーを中心に中学、高校、女子と幅広い現場に足を運ぶ。㈱Link Sports スポーツデジタルマーケティング部部長。複数の自社メディアや外部スポーツコンテンツ・広告の制作にも携わる。愛するクラブはヴェルダー・ブレーメン。