CLベスト8に3チームを送り込み、復活を印象づけたイタリア勢。その中で実現したのがミラン対ナポリの対決だ。両チームには欧州でもトップクラスのウイングを擁しているという共通点がある。ラファエル・レオンとクビチャ・クバラツヘリア。好評発売中の『フットボリスタ5月号』の「ウイング」特集に絡めて、2人の対決にフォーカスしてみた。
CL準々決勝のセリエA対決はミランに軍配が上がった。ラファエル・レオンの活躍が光っていたが、敗れたとはいえナポリのクビチャ・クバラツヘリアも存在感を示していた。どちらも現代を代表するウイング。しかし、その個性とプレースタイルは対照的だ。
レオンのカットインは、もはや「ハメ技」
レオンはかなり特異なウイングである。スピードがありテクニックにも優れているが、そもそもそれがないウイングはいない。レオンの凄みは「迫力」と「リーチ」だ。
188㎝は、速さと敏捷性が勝負のウイングとしては例外的なサイズ。足も長い。スキルは高いのだが不器用そうに見える。トリッキーなプレーもけっこうあるのだが、「こういうこともできるのか」と思ってしまう。それよりなにより「迫力」なのだ。
DFに向かっていくレオンのドリブルは圧が強い。滑らかではなく、何だかガチャガチャしながら向かってくる感じなのだが、それが妙に恐い。あのサイズと圧力で向かって来られるとDFは下がらずにはいられないだろう。実際、レオンに突っかけられるとDFは下がる。下がったらガバッと右足のアウトで切り返してカットインというのが十八番、というよりほぼこれしかないのだが、守備側としたらまったく防ぎようがないのだ。勇気を出して止めに行けば、予想外に遠い間合いから背後へボールを出されて入れ替わられてしまう。レオンは見た目より速く、普通より遠い間合いで勝負するので、うっかり飛び込むとぶっちぎられる危険が大きい。
まずDFはレオン独特の圧によって下がっている。だから切り返された時のボールは遠い。遠いどころか到底届く場所にはない。「リーチ」が長いのだ。カットインするレオンに寄せようとしても大きな歩幅でぐんぐん加速される。ボールは相変わらず届く場所にはない。DFとしてはシュートコースを塞ぐので精一杯。逆サイドへのサイドチェンジやクロスボールは捨てる他ない状態になってしまう。
つまり、レオンに迫力のあるドリブルで向かってこられたが最後、DFはもうどうすることもできない。これに関しては才能しか感じない。才能というより大きく産んでくれた親のDNAのおかげ。まあ、本人の努力はもちろんあるわけだが、あのサイズとあのリーチによる、あの迫力がなければまず成立しないのだから、ほぼ持って生まれたものだろう。ウサイン・ボルトはサッカーが大好きでかなり上手いそうだが、ボルトがサッカー選手だったらたぶんレオンみたいな感じかと思う。
レオンはこのカットインだけで飯が食える選手だ。スピードとリーチが生み出す間合いの広さ。この才能があるので広い場所でボールを持たせたらほぼ無敵。ナポリとの連戦でのミランの武器はカウンターであり、レオン大活躍はある意味予想できる結果だったと言える。
正統派ウイングだが、異質な技術を持つクバラツヘリア
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。