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“ジェラード・ショック”からの復活劇。古豪アストンビラが「戦術の達人」エメリに見る夢

2023.04.15

佳境を迎えた2022-23シーズンのプレミアリーグで、一気に順位表を駆け上がっているアストンビラ。開幕11試合で9ポイントと17位に低迷していたチームは、ウナイ・エメリの監督就任を機に約5カ月でアーセナルとマンチェスター・シティに次ぐ勝ち点35を積み上げ、今や6位にまで浮上している。かつてELを4度制した実績十分のスペイン人戦術家は、どのようにして悩める古豪を立て直したのか。Twitterで「AVFC Japan」として日本のサポーター向けにアストンビラの情報を発信している安洋一郎氏が、その敏腕ぶりを振り返る。

 近年のイングリッシュ・フットボールではサポーターが経営陣に対して、抗議の意味を込めて不満のチャントを歌う光景をよく目にする。だが、アストンビラは対照的だ。

 試合終了間際に決まったベルトラン・トラオレのゴールで2-1の勝利を収めた、4月5日の第7節延期分レスター戦後に、アウェイまで駆けつけたサポーターたちは、

 「パースロウはランボルギーニでスペインに行き、“スーパー“ウナイ・エメリという監督を連れてきてくれた」

 と、新監督にエメリを招へいしたクラブ最高責任者(GM)のクリスティアン・パースロウ氏を讃える大合唱を行った。

プレミアリーグ第21節、サウサンプトン戦を敵地で観戦するパースロウGM

 サポーターがこれだけ経営陣とウナイ・エメリ監督を讃えるのには理由がある。

 第30節終了時点でアストンビラはプレミアリーグで暫定6位と、ヨーロッパ大会の出場権獲得が可能な位置につけている。1981-82シーズンにUEFAチャンピオンズカップ(現CL)を制したイングランドを代表する古豪は、2008-09シーズンを最後に本戦出場がなく、3シーズンの2部降格を経て、長い低迷からようやく抜け出すチャンスを得たのだ。

終わりの始まりはジェラード前監督の“両腕”退団

 今でこそヨーロッパ大会出場圏内を争っているアストンビラだが、スティーブン・ジェラードが率いていた今季のスタートは“最悪”だった。

 昨季限りでリバプールのアカデミー時代からジェラードのアシスタントコーチを務めていたマイケル・ビールが退団したことが終わりの始まりだった。彼の退任はジェラードにとって“右腕”どころか“両腕”を失うに等しかった。

 ジェラードはそれまで、試合で用いる戦術や選手への指示、トレーニングのメニューなど大半のことをビールに任せていた。これだけ依存していた人物の退任はダメージが大きく、「自身のネームバリューを生かした選手獲得」以外の分野では未熟さを露呈した。

 アストンビラを通算40試合率いた中でホームでの連勝が0試合とまったくもって一貫性がなく、逆転勝利は就任4試合目のレスター戦のみと修正力は皆無。対ビッグ6は12戦2分10敗と番狂わせもなく、タイロン・ミングスを主将から外したことやB.トラオレらを不必要にU-21チームに追放したマネジメント面でもサポーターの反感を買った。

 そしてアウェイで行われた今季の第12節フラム戦で、プレミアリーグ史上初となる「一発退場」「PK献上」「オウンゴール」が重なる絶望的な負け試合を展開。“クラブ史上最悪の監督”とレッテルが貼られ、チームが試合終了後のバスに乗車する前に経営陣からジェラードへ“解任“が伝えられた。

 この時点での成績は2勝3分6敗の9ポイント。当時最下位だったノッティンガム・フォレストとの差が3ポイントしかないという状況で後任へと引き継がれた。

レンジャーズをスコティッシュ・プレミアリーグ優勝に導いた手腕が評価され、22年11月からアストンビラを率いていたジェラード。現役時代に504試合出場したプレミアリーグでは監督として結果を残せず、1年を持たずして任を解かれることに

スピード就任からの快進撃。W杯による中断も追い風に

 ディーン・スミス体制からアシスタントコーチを務めていたアーロン・ダンクスが暫定監督に就任すると、初陣のブレントフォード戦で4-0の大勝。“ジェラード・ショック”から解放された選手たちは、これまでの低調なパフォーマンスから一転して生き生きとした姿をみせた。

 そして迎えた10月24日、ジェラードが解任されたわずか4日という超スピード決着で、当時ビジャレアルを率いていたウナイ・エメリの新監督就任が発表された。

 このエメリ招へいは、かつてリバプールとチェルシーで最高責任者を務めたパースロウ氏の手腕が発揮されたと言っていいだろう。彼はイギリス人でありながらスペイン語でコミュニケーションを取ることができ、こうしたことも交渉がスムーズに行われた要因だとされている。

 そして迎えたエメリの初陣、対戦相手は当時公式戦9試合無敗のマンチェスター・ユナイテッドだった。この絶好調のチーム相手にわずか7分で先制すると、その後も着実に追加点を重ねて3-1の快勝。ジェラードが38試合かけて一度も勝てなかったビッグ6相手に初陣で勝利を飾り、ホームでマンチェスターUに勝利するのは27年ぶりの快挙も同時に成し遂げた。

 続くブライトン戦にも勝利すると、カタールW杯開催による中断期間に突入。エメリ監督はこの間に合宿を行って戦術を落とし込んだ。アストンビラからW杯に出場した選手はエミリアーノ・マルティネスとマティ・キャッシュ、レアンデル・デンドンケルの3名しかおらず、この期間でチームは一気にエメリ色の強いチームとなった。

 その後の快進撃は記憶に新しいだろう。レスター、マンチェスター・シティ、アーセナル相手に3連敗を喫した時期もあったが、2月26日のエバートン戦から4月8日のノッティンガム・フォレスト戦までのプレミアリーグ7試合で6勝1分と多くの勝ち点を重ねた。この7試合で失点を喫したのはわずか2試合で、他5試合でクリーンシートを達成している。そしてついに欧州カップ戦出場圏内の6位へと順位を上げた。

 エメリがアストンビラの監督に就任して以降、より多くの勝ち点を獲得したのは首位アーセナルと2位マンチェスターCの2クラブしかない。

18-19から翌季途中までアーセナルを指揮して以来のプレミアリーグ復帰となったエメリ(右)。初陣ではエリック・テン・ハフ(左)の下で復活の兆しを見せる好調マンチェスターUを下して勢いに乗った

「疑似カウンター」を得意とする「戦術の達人」の修正力

……

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アストンビラウナイ・エメリスティーブン・ジェラードプレミアリーグ

Profile

安 洋一郎

1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。中学生の頃よりアストン・ヴィラを応援しており、クラブ公式サポーターズクラブ『AVFC Japan』を複数名で運営。プレミアリーグからEFLまでイングランドのフットボールを幅広く追っている。

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