クロアチア代表の再出発。次の目標はネーションズリーグ優勝、モドリッチの“炎”も燃え続ける
ロシアW杯準優勝、カタールW杯3位、そして現在開催中のUEFAネーションズリーグでもベスト4入りを決めているクロアチア。3月の代表シリーズ(EURO予選)で始まった新しいサイクルの基本路線は「継続」。「ネーションズリーグでは“ここ”にいる。先のことはそれから決めるよ」と37歳モドリッチも欧州王者を次の目標に定め、炎を燃やし続けている。
「我われへのリスペクトがない」ダリッチ監督、怒りの大演説
2月27日にパリで授賞式が行われた2022年度の「ザ・ベスト・FIFAフットボールアウォーズ」の陰で、ちょっとした一悶着が起きていた。クロアチア代表監督のズラトコ・ダリッチは投票をボイコット。授賞式翌日にはクロアチアサッカー協会を通し、不満と疑念が入り混じる声明を投下した。
「クロアチア代表に対するFIFAの態度に私は失望している。近年我われが達成してきた結果には、もっと大きな敬意が払われるべきだと考えている。クロアチアはカタールW杯とネーションズリーグのベスト4に進出した唯一の国だ。世界最高のブラジル代表にも勝利して世界を驚かせた。直近のW杯2大会でメダルを獲得したのは我われとフランスだけ。そのフランスには、ネーションズリーグのアウェイマッチで勝利している。
最優秀選手のノミネート14名のリストを見てくれ。ルカ・モドリッチを除けば、どこにクロアチア人がいるんだ? いずれの選手や監督にも大きな敬意を払っているので、他国の個人をいちいち数えるつもりはない。しかし、CL王者にもなり、W杯でも素晴らしいプレーをしたマテオ・コバチッチがノミネートに挙がらないのはどうしてだ? 多くのメディアがW杯やブンデスリーガのベスト11に選んだヨシュコ・グバルディオルはどこにいる? 最優秀GKのノミネート5名にドミニク・リバコビッチが値しなかったのなぜなんだ?」
ここまでがいわゆる「前振り」で、ボイコットに至ったダリッチの憤怒の源が明らかにされる。最優秀監督のノミネート5名に彼は選ばれなかったのだ。ノミネートされたのは、カルロ・アンチェロッティ、ディディエ・デシャン、ジョセップ・グアルディオラ、リオネル・エスカローニ、そしてもう1人がワリド・レグラギ。彼が率いるモロッコ代表を倒してクロアチアが3位になっただけに、本人は納得がいかなかったのだろう。FIFAに対する怒りはさらにヒートアップする。
「モロッコの成功と代表監督には大きな敬意を払うが、2度のクロアチアとの直接対決は1勝1分。そして我われが銅メダルじゃないか。カタールW杯を振り返れば、数字や印象度から言ってもリバコビッチが最優秀GK、そしてグバルディオルが最優秀若手選手に選ばれるべきだった。そういうすべての事柄を“リスペクトの欠如”として我われは捉えている。カタールW杯のキックオフ時間(グループステージのモロッコ戦)もそうだし、あてがわれた審判だってそう。特に準決勝のアルゼンチン戦なんて……。我われの代表チームは、その戦いぶりやピッチ内外の振る舞いから、もっと大きな敬意を受けてもおかしくないと考えている。
もしイングランドやブラジル、スペインやドイツ、イタリアの選手や監督が我われのような結果を成し遂げたら賞を総なめにするだろう。もっとクロアチアのこと、クロアチアの代表チームや選手たちをリスペクトしてほしい。2大会連続でW杯のメダルを獲得したクロアチアは、世界的なセンセーションを巻き起こした国だ。小国だって大国相手に戦える事実をFIFAはもっともっと宣伝すべきなんだ。それこそサッカーの世界で最も美しいメッセージであるはずだから。
以上の理由で、私は今年度の投票には参加しないと決心した。とはいえ、すべての受賞者には心より祝福したい。(最優秀選手の最終ノミネート3名からは漏れて)4位になったルカはとりわけ祝福しているよ。私にとっては常に彼が一番だ」
ピッチ上では不可解な采配を繰り返し、ピッチ外でも自身の成功を様々なものに結び付けて声高に吹聴するダリッチ監督に対し、いちジャーナリストとしての私は多少なりの不信感を抱いている。それでもボイコット表明に至った彼の主張に激しく同調できるので、今回は長めに声明を引用させてもらった。
そうだ、クロアチアにはもっと敬意が払われるべきだ。そして、もっと愛されるべきだ。バトレニ(「炎の男たち」を意味するクロアチア代表のニックネーム)への愛情に満ちあふれた拙書『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』が5月31日に発売されるので、クロアチア代表の魅力を是非とも皆さんに……いや、本題から外れるので宣伝の機会はあらためてさせていただこう(笑)。
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「継続」のクロアチア。モドリッチもやる気満々
カタールW杯の余韻に浸るヒマなどなく、サッカー界はカレンダーに沿って粛々と歩みを進めている。3月にはEURO2024予選が開幕。クロアチアには大国ほどの選手層がないものの、EURO2020後に世代交代が着々と進められてきたので(ロシアW杯とカタールW杯の両大会を経験した選手は8人のみ)、今回の招集リストは最小限の変更に留まった。……
Profile
長束 恭行
1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。