トップチームに3人の日本人選手が所属するシュツットガルトは、今季もブンデスリーガで苦戦を強いられている。開幕からリーグ戦9試合で白星を挙げられず、ペッレグリーノ・マタラッツォ監督を解任。続くブルーノ・ラバディア監督の首も11試合で飛んでいる。3人目の指揮官として再建を託されたセバスティアン・ヘーネス監督は、古豪を2戦2勝に導く幸先の良いスタートを切っているが、チームを残留に導くことはできるのだろうか。その行方を現地在住の中野吉之伴氏に占ってもらった。
多国籍若手軍団に合わなかったベテラン監督の価値観
日本代表の遠藤航、伊藤洋輝、原口元気が所属するシュツットガルトはブンデスリーガ1部残留を果たすことができるのだろうか。
昨季は最終節ケルン戦の後半アディショナルタイムに伊藤のアシストから遠藤が決勝ゴールを挙げるという劇的な展開で1部残留を決めた。今季は序盤からなかなか勝ち点を積み重ねることができず、ペッレグリーノ・マタラッツォ監督が10月に解任。監督だけではなく、2019年からの数年間、チーム作りに多大な貢献をしていたスベン・ミスリンタートSD(スポーツディレクター)もクラブを去った。
クラブとしての方向性がブレたのでは?と感じさせられたのは、後任として就任したのがベテラン監督のブルーノ・ラバディアだったからだ。ブンデスリーガ監督として経験豊富だし(レバークーゼンやボルフスブルク、ヘルタ・ベルリンの指揮官を歴任。過去にはシュツットガルトも率いている)、残留争いでの実績もある。ただ、それまでクラブが打ち出していた《若手選手を中心に長期的なプランで成長していく》というコンセプトからは外れた人事だったのは否めない。
火消し役として結果が出れば文句もなかったのだろうが、12月5日に就任してからリーグ戦11試合でわずかに1勝(3分7敗)。26節ウニオン・ベルリンに0-3で敗れ最下位に沈んだことで解任という運びになった。[4-3-3]に固執し戦術的バリエーションも少なく、問題点の改善がみられなかったという指摘もある中で、ただラバディアが思い描くサッカーができる陣容ではないチーム状況での就任だったことから同情の声も少なくない。そもそも「なぜラバディアを選んだのか?」と首脳陣へ批判が集まっていた。
それこそミスリンタート自身もテレビ討論番組で、「私だったらブルーノは選ばなかっただろう。哲学・コンセプトが異なりすぎる。でも、ブルーノの持つ経験と戦い方でクラブを残留へと導くことは十分に可能だと思う」と話をしていたほどだ。
ラバディアは良くも悪くも古い世代の指導者。特に規律と互いのリスペクトをもった振る舞いを何よりも大事にする。とても大切なことだ。ただ、その価値観をシュツットガルトの若い選手は正しく理解できないでいた。
FWタンギー・クリバリー(22)やMFエンゾ・ミロット(20)は残留争いの真っただ中でありながら、トレーニングに遅れるなど規律を守れずにいたが、チーム自体に欠場選手が多かったためにリーグ戦でメンバー入りさせざるを得なかったという。
FWトーマス・カスタナラス(20)は副キャプテンのウラジミール・アントンがアドバイスを送ろうとしているのに、それに耳を傾けるどころか、拒絶したりと、とてもチーム一丸という雰囲気ではなかった。
それこそ原口も以前「いろんな国の選手がいるし、このチームの問題はもしかしたらそこかもしれない。いろんな国の選手がいすぎて言語的にも難しい部分もある。なかなかコミュニケーションを取りにくいところはある」と心境を明かしていたことがあった。
新監督の「適材適所」を噛み合わせる遠藤とギラッシー
結果としてチームを残留へと導くことができずに、“今季3人目の監督”となるセバスティアン・ヘーネスにすべては委ねられることになった。……
Profile
中野 吉之伴
1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。