ミシェル・プラティニ。9番と10番、2つの顔を持ち合わせるピッチの“将軍”
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フランスサッカー界を代表するレジェンドの1人ミシェル・プラティニ。勇猛さとエレガントさが同居し、ゴールを揺らすことも試合を支配することもやってのけたその稀有なる才能の歴史を紐解く。
「9.5番」の男
ナンシーやサンテティエンヌでプレーしていた頃のミシェル・プラティニには、「9番か、それとも10番か?」という議論があった。9番はCF、10番はプレーメイカーの背番号だ。
1980年代までは、背番号がポジションを表していた。先発メンバーは1から11番のシャツを着ることが一般的。国によってポジションと背番号は微妙に違っていたのだが、9番がCFなのは万国共通だった。一方で10番のポジションはまちまち。もとは5人のFWのうち左から2番目のポジションが10番だったのだが、システムの変化とともにFWがつけたりMFがつけたりしていた。
南米はオリジナルのインサイドFWに近いポジションが10番。この番号を世界的に有名にしたペレをはじめ、ディエゴ・マラドーナやジーコが代表的だ。CFより少し引いた位置でプレーし、得点やアシストで攻撃の仕上げを担当する。
欧州では、南米に比べると10番は深い位置にいた。[4-2-4]システムの時代は南米と同じで、例えば14番で有名なヨハン・クライフもよく10番のシャツを着てプレーしていた。しかし、[4-3-3]システムが主流になるとMFが10番を着るようになっていく。[4-4-2]システムが主流になったイングランドは9番と10番の2トップだったが、大陸側ではプレーメイカーの背番号という認識になっていた。
プラティニはプレーメイカーであり、同時にストライカーだったので、「どっちなんだ?」という話になっていたわけだが、後に「9.5番」と自ら言っていたように、得点力のあるプレーメイカーとしてプラティニ自身が議論に終止符を打っている。もちろん9.5という背番号はないので試合では10番を着ていたが、要は南米風の10番である。
ただ、プラティニは得点力のあるプレーメイカーであって、組み立てもできるストライカーではない。セカンドトップに近い、インサイドFWの伝統を残してきた南米の10番と微妙に違うところだろう。2トップの背後、いわゆるトップ下でプレーすることが多く、その時のプラティニのスタイルは、レアル・マドリーで9番を着てフィールドの縦軸を支配したアルフレッド・ディ・ステファノに近かった。しかし、2トップの1角としてプレーすることもあり、その時は完全にストライカー然としたプレーぶりだった。
中盤でプレーするプラティニはカメラマン泣かせだった。あまりドリブルもせず、少ないタッチでボールを離すので「絵にならない」という話だった。カッコいい写真を撮りたいのに派手なアクションがなく、ボールが写っていないケースもしばしば。ところが、前線でのプラティニは貪欲なゴールハンターに変身し、接触プレーやヘディングも強い。
優雅な10番で、獰猛な9番。南米の10番はずっと10番だが、10番と9番の間を行き来するプラティニは自ら言っているように「9.5番」が確かにふさわしいのかもしれない。
多彩な右足と魔法陣
技術的に傑出していたのは右足のキックだ。
FKは世界最高と言われていた。ゴールまで20mぐらいの距離は「プラティニ・カントリー」と呼ばれていて、高確率で直接決まる。右足でフックさせる軌道が知られているが、アウトサイドで右方向へ鋭く曲がるシュートも持っていた。こちらはミドルシュートでもよく使っている。
無回転で飛ぶ、ボールの芯を食った強烈なキックもあり、バックスピンをかけて疾走するFWの鼻先に落とすロングパスは絶品。ユベントスではプラティニの背後へ落すパスとズビグニェク・ボニエクの裏抜けの組み合わせが得点パターンだった。
状況判断力は突出していて、とにかく周囲をよく見ている。フィールドのどこへでも届けられる右足があって俯瞰の眼があるので、1タッチや2タッチで的確なプレーができる。遠くへ蹴ることができるので遠くを見られる。通常、飛距離外を見ることはあまりないので、プラティニのキック力と視野の広さは関係しているのだろう。
ドリブルも巧かったけれども、同時代の南米の10番であるマラドーナやジーコのような凄みはない。するすると持ち上がる、相手の逆をとってかわすのは巧かったし、瞬発力があり走っても速かったのだがフィジカル的には平均より上という程度でそこまで飛び抜けていなかったからだろう。
9番であり10番のプラティニを活かすためなのか、フランス代表はCFを置かないシステムが定番化していた。単に9番タイプがいなかっただけなのかもしれないが、1982年W杯のチームはドミニク・ロシュトーとディディエ・シスの2トップで、どちらも本来はウイングプレーヤー。「偽9番」や「0トップ」といっても、CFのポジションに誰かはいる。それらしいタイプではないだけで通常は人を置いているものだが、フランスのようにCFポジションが無人、本当にトップがゼロというのはかなり珍しい。空けてある中央にはプラティニかアラン・ジレスが入っていく形だった。
プラティニは1978、82、86年と3大会連続でW杯に出場しているが、毎回どこか負傷していたり体調が悪かったりで、真価を発揮したとは言いがたい。それでも82、86年はベスト4。ユベントスではチャンピオンズカップ優勝(1984-85)を果たしているけれども、リバプールとの決勝は「ヘイゼルの悲劇」が起こり、プラティニにとってそれはトラウマになったという。
いま一つビッグタイトルに縁のないプラティニだが、最も輝いたのは1984年の欧州選手権だ。
開催地フランスに優勝をもたらし、自身も2度のハットトリックを含む毎試合得点(9ゴール)で得点王を獲得。この大会では9番としての能力が全開だった。ジレス、ジャン・ティガナ、ルイス・フェルナンデスと組んだ4人のMFはカレ・マジック(魔法陣)と呼ばれるパスワークを披露した。
復活フランスの原動力
1978、82年のW杯と84年欧州選手権でフランス代表を率いたミシェル・イダルゴ監督はプラティニについて、「彼がいることですべては容易になる」と語っていた。
フランスが長い低迷期から脱して強豪国の1つに返り咲いたのは、プラティニ世代からである。1958年W杯でフランスは3位となったが、それ以後はトップクラスから転落。その58年大会でレイモン・コパやジュスト・フォンテーヌと一緒にプレーしたイダルゴが監督となり、フォンテーヌの通算得点記録を塗り替えることになるプラティニとともに新たな時代を築いている。
最初の黄金時代の中心だったコパはポーランド移民の子、フォンテーヌはモロッコの出身だった。イダルゴの父親もスペイン生まれ。フランスのサッカーは外国をルーツとする選手が担ってきたのだ。プラティニはイタリア系でイタリア風の読み方ではプラティーニになる。盛り返した80年代もマリ出身のティガナやスペイン系のルイス・フェルナンデスなど、ほとんどが外国ルーツの選手たち。ティガナやユリウス・トレゾールなど、黒人選手が代表チームに組み込まれた時期でもあった。
プラティニが引退すると、フランスは2回連続でW杯出場を逃してしまうのだが、1998年の自国開催時に初優勝。この時のチームもアフリカなどからの移民系が大半を占め、その流れは現在まで続いている。98年以降、世界の強豪国であり続けているのは、ジネディーヌ・ジダン、キリアン・ムバッペなどスーパーなタレントを切れ目なく生み出せるようになったからだ。その礎になったのはクレールフォンテーヌの国立育成所。森に囲まれた広大な施設の中心にあるフィールドには、「ミシェル・プラティニ」の名が冠されている。
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<商品情報>
商品名 :プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド
ジャンル:スポーツ育成シミュレーションゲーム
配信機種:iOS / Android
価 格 :基本無料(一部アイテム課金あり)
メーカー:セガ
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Edition: Yuichiro Kubo
Photos: Getty Images
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。