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リバプールが用意した二段構えの「3-2型」を攻略も…アルテタ・アーセナルの光と影

2023.04.11

19年ぶりのプレミアリーグ制覇に向けて邁進するアーセナルに対して、30節にそびえる大きな山――アンフィールドで待ち受けるリバプールはそんな存在だった。この地でのリーグ戦は6連敗中。最後にアーセナルが勝利を挙げた試合は、監督席ではなくピッチにミケル・アルテタがいた2012年まで遡らなければならない。この試合も一筋縄ではいかない戦術、メンタルが試される場となった。

アーノルドの“偽SB”起用の意図を読む

 リバプールにとってはお得意様を迎える試合になるが、現状ではリーグ戦で未勝利が続いている。一度はくっきり見えたCL出場権は再び霞むようになってしまった。得意のホームとはいえ、流れが悪い中での首位との一戦は不安要素があるだろう。

 立ち上がりに普段とのスタンスの違いを打ち出したのはリバプールであった。アーセナル、マンチェスター・シティでお馴染みのSBを内側に入れる“偽SB”を採用。この役に抜擢されたのはアレクサンダー・アーノルド。アンカー役のファビーニョと並び立つように後方を3-2型に変形し、アーセナルに対してビルドアップを行っていく。

 おそらく、狙いはポゼッションの時間の増加だろう。大敗したマンチェスター・シティ戦の反省点は自分たちの保持の時間を確保できず、一方的に低い位置でブロック守備を強いられるようになったことにある。

リバプール対アーセナルのハイライト動画

 無論、リバプールのアタッカーの陣容を考えれば、ロングカウンターでも得点力には問題はない。だが、そもそもブロック守備の強度があるチームではなく、シティの大外とハーフスペースのコンボには歯が立たなかった。低い位置で守備を組むというロングカウンターの前提条件の方に問題が起きるのだ。今のプレミアにおいてシティと並び立つ得点力を有し、かつ大外とハーフスペースのコンボアタックが得意なアーセナルに対しては守備の時間を減らしたいと考えるのは自然な流れのように思う。

 アーセナルのベースである[4-2-3-1]型のプレスではファビーニョの隣に登場したアレクサンダー・アーノルドのケアには対応が必要となる。トップのジェズスが最終ラインのプレスを諦めて中盤をケアするか、あるいは中盤から人が出ていくかの2択が対応策として真っ先に思いつく。アーセナルが選んだのは後者。グラニト・ジャカが列を上げて中盤のケアに出ていくことで対応していく。

 リバプールからの奇襲とも言える3-2型だったが、アーセナルは自分たちの哲学である高い位置からのプレッシングを維持したままとても上手く対応したと言えるだろう。前線と中盤は非常にコンパクトにプレスを行っており、ずれそうになっても他の選手がカバーをする。低い位置から一つずつズレを使うような前進は許さず、リバプールのショートパスベースの攻撃は綺麗に封じてみせた。

 ただし、リバプールの3-2型には次善の策があった。

 それは素直にロングカウンターを生かす形である。大敗したシティ戦と同じスタンスではある。だが、先述の通りリバプールがアレクサンダー・アーノルドを低い位置に降ろしているのに伴い、アーセナルはジャカが1列前に出て行っている。よって、後方はリバプールのアタッカーに対して同数で受ける必要がある。

 加えて、アーセナルのこの日のバックラインには広い守備をカバーするという部分で不安があるホールディングがいる。ガクポと彼のマッチアップはリバプールにとっては攻め所と言えるだろう。

 仮に後方でのポゼッションの局面の増加が望めなくとも、逃げ場となるロングボールではアーセナルを弱めた状態で対峙することができる。リバプールの3-2はこうした二段構えの構造になっていたように思える。よって、リバプールのバックラインはハイプレスをハメ続けるアーセナルに対して、躊躇なくロングボールを蹴っていった。

 しかしながら、アーセナルはこのロングボールにも上手く対応した。ガブリエウはもちろん、不安要素として名前を挙げたホールディングもハイラインの対応に問題はなく、デュエルで決定的な場面を作られることはなかった。

序盤は自陣でビルドアップを助け、終盤は高い位置を取って自身の強みである高精度のクロスからフィルミーノの同点弾をお膳立てしたアレクサンダー・アーノルド

前線プレスを逆手に取り、SBと“サシ勝負”

 リバプールの奇襲に上手く対応したアーセナル。ボール保持でもリバプールのハイプレスを落ち着いていなしていく。左SBのジンチェンコがインサイドに入る3-2型をメインで使い、バックラインは横幅を使いながらポゼッション。リバプールのウイングが横幅を対応できない際はインサイドハーフが出ていく仕組みになっている。モハメド・サラーの後方をケアするヘンダーソンがそのカバーに入るなどは、かなり構造的に組み込まれていた感がある。

 アーセナルはリバプールのウイングのプレスを越えれば、相手のインサイドハーフがケアできていない方を選べばいい。外のケアが間に合わないならばアーセナルのウイングにパスを出せばいいし、外に引っ張られ過ぎているのであれば、インサイドのジンチェンコやトーマス・パーティから前進が可能。アーセナルはバランスよくリバプールのプレスをかわしながら前進する。……

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アーセナルリバプール

Profile

せこ

野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。

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