14年ブラジル大会を制したものの、続くW杯2大会では連続でグループステージ敗退に終わっているドイツ代表。24年に自国開催となるEURO2024を控えている中、ハンジ・フリック監督の続投を決断した強豪国は3月シリーズで復活の兆しを見せられたのか。現地在住の中野吉之伴さんにレポートしてもらった。
スマート化で失われた伝統的な美徳と様々な資質
W杯2大会連続でグループステージ敗退を喫したドイツ代表は、どのような仕切り直しを考えているのだろうか。
かつてドイツといえば、嫌らしいまでに徹底的に相手の良さを消し、粘り強い戦いで泥臭くゴールを奪い、力尽くでねじ伏せられる強引さを持っていた。しかし、時代の流れとともに《闘争心》《ハードワーク》《競り合いの強さ》だけではトップレベルで通用しないと気づき、ドイツ全土を巻き込んでの育成改革を行われた。それが功を奏して数多くのタレントが生まれ、14年ブラジルW杯では通算4度目となる優勝を果たすことができた。
ドイツはテクニカルでタクティカルな国としての地位を確かなものにしていたわけだが、一方で本来持っていた伝統的美徳がどんどん薄れていくことへ警鐘を鳴らしていた現場の関係者は少なくない。
事実カタールW杯だけではなく、それ以前のUEFAネーションズリーグの試合でもあまりにもあっさりと失点を許し、あまりにも軽率にゴールチャンスを逃してしまう。日本戦での浅野拓磨のゴールシーンにはファンも関係者も頭を抱えていたが、どこかで「やっぱり…」と思わざるを得ないほど、ドイツの問題は顕著なものとなっていた。
カタールの人権問題にどんなアピールをすべきかという政治的問題に振り回されたり、常に不安を抱えていた守備での課題がまるで解決されないまま大会を迎え、予想通りにミスから失点を繰り返してしまう。その姿に「応援したところで…」という虚しさを感じたファンがいても不思議ではない。
《モダンサッカー》という言葉とともに、サッカーのすべてがスマート化されつつあるが、本質的なところはいつの時代も変わらないはず。なのに、ピッチ上ではドイツ代表にあったはずの伝統的な美徳が感じられないのが大きい。
サッカーとはすべての選手がスキルフルである必要はない。様々な資質を持った選手たちが、それぞれの特徴をチームのために生かし、生かされるような関係性がそこには求められる。元ドイツ代表DFのルーカス・シンキビッツがこんなことを言っていた。
「サッカーは技術だけでするものじゃない。状況判断だったり、アイディアだったり、フィジカル能力を持った選手も必要だし、それにヘディング力だって大切な要素だ。相手の攻撃を食い止める泥臭いプレーができるMF、身体を張って相手の攻撃を跳ね返し続けるDFだって必要だ。足が速くてスペースを突くのに長けた選手も重要だ。様々な関わり方ができるから、サッカーは面白いんじゃないか。様々な勝ち方があるから、ドキドキワクワクするんじゃないか。技術に優れた選手は必要だけど、みんながみんな同じようなプレーをしたからって相手を上回ることができるのか?」……
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Profile
中野 吉之伴
1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。