前回とは変わったSBの役割とボール保持の課題、突き付けられたプレッシング“後”の問題…日本対コロンビア戦分析
カタールW杯後の2戦目にコロンビア代表と対戦した日本代表。1-1だったウルグアイ戦から先発4人を入れ替えて臨んだ試合は、先制するも逆転を許し1-2の敗戦に終わった。ウルグアイ戦からの変更点とそれによる影響、厳しい戦いとなった要因について、『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者らいかーると氏が分析する。
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ほぼ満員の国立競技場で行われたウルグアイ戦は引き分けに終わりましたが、日本代表がサリーダ・ラボルピアーナと偽サイドバックを携えたことで様々な議論が巻き起こりました。私自身はそんな議論を華麗にスルーしながら日々を過ごしていたのですが、まだまだ日本代表への注目も高いのだなと再認識させられたことを覚えています。
個人的な感覚として、ウルグアイ戦でサリーダと偽SBを採用したことに違和感を覚えました。これまでの日本代表はウイングとSBで大外レーンと内側レーンを共有するプレーを行ってきました。一方で、今回の偽SBはSBをライン間に送り込むことを目的としていました。これまでに行ってきたSBの内側レーンへの移動とは根本的に異なります。
また、その違和感はコロンビア戦のスタメンを見ても感じました。多くの選手を起用する森保スタイルと言えばそれまでかもしれません。しかし、町野修斗、西村拓真の抜擢、鎌田大地のセントラルハーフ、伊藤洋輝のCB起用、バングーナガンデ佳史扶の抜擢、シュミット・ダニエルと菅原由勢の継続起用と、うまく言葉にできませんが抜擢、他のポジションでの起用、そして継続のバランスがどうも悪い気がします。果たして機能するのか?という意味においてです。ただし、こういった変化は新スタッフ加入による化学反応かもしれませんし、4年間を経験したことによる森保監督自身の変化かもしれません。その答えは、2年くらい見ないとわかり得ないかもしれませんが。
ウルグアイ戦とコロンビア戦で見せた日本のビルドアップの違い
試合開始早々の落ち着かない試合展開の中で何気ないロングボールをマイボールにした町野は、困った時の空中戦のターゲット選手権でリードしたかもしれません。西村のサポートを得てボールを前進することに成功した日本は、守田英正のクロスから三笘薫がヘディングでゴールを決めあっさりと先制に成功します。
ウルグアイ戦に続いて、ボール保持にチャレンジしたい日本はシュミットからビルドアップを開始しますが、連係ミスからシュートの雨嵐を食らう構図に。ぎりぎりのところで失点を防ぐと、時間の経過とともにプレッシングを落ち着かせていくコロンビアに導かれるように、日本がボールを保持する時間が増えていく展開となります。
ウルグアイ戦では相手のライン間に両SBを送っていましたが、コロンビア戦では本来のSBの位置をスタートとしていました。さらに言えば、伊東純也は基本的に大外レーン、三笘は内側と大外レーンを共有しているようでした。このSBの役割は、以前の日本が与えていたものに非常に近い形です。特に三笘が内側でプレーする機会が明らかに増えたことは、2つの試合の差異を表す最も象徴的なエピソードと言ってもいいでしょう。
ウルグアイ戦のSBの役割がライン間に立つことで相手を中央に引き付けてサイドにスペースを与える、もしくは自分たちがそのエリアで生きることを目的としているならば、コロンビア戦のSBの役割はウイングのサポートを行うことを第一優先にしているようでした。なお、SBが本来の位置にいる場合のウイングの平行サポートに関して、西村を中心に町野も貢献しようとしていたことは見逃せないポイントです。
ボールを保持する時間が長くなっていった日本ですが、内側に移動する機会が多い三笘はパス回しに貢献し、右サイドで存在感を発揮したい伊東は対面のデイベル・マチャドに苦戦する展開となります。日本の最大の武器はウイングの質的優位と言っても過言ではありません。となると、両者が得意な形で力を発揮できそうにない時に、どのようにチームで調整するかは今後の課題となってくるかもしれません。
最大の問題は空中戦
世界のサッカーの流れに目を移すと、ビルドアップの進化に対抗してマンマーク戦術を採用するチームが増えてきています。マンマーク戦術に対して、コンビネーションやポストプレーによる地上戦で打開するか、空中戦の優位性を利用する対抗策がスタンダードになりつつあります。
空中戦の優位性はCB対CFの中央エリアで発揮されるよりは、相対的に弱い部分であるサイドエリアが主戦場となりつつあります。つまり、CBよりは空中戦に弱いだろうSBが狙われる時代となり、この流れが空中戦に強いSBの価値を高めています。
空中戦に強さを求められるポジションはSBだけではありません。セントラルハーフもその強さを求められます。GKやCBからのロングボールは中盤でも競り合いが頻繁に起こります。特にGKのパントキックやゴールキックを誰が競るか問題は、デザインが可能となるため非常に重要となります。しかし、日本のセントラルハーフに空中戦に喜んで参加する選手は見当たりません。カタールまでの日本を例に出すと冨安健洋、吉田麻也、板倉滉が“出張”するしかない状況で、これはメリットもデメリットも内包しています。……
Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。