30歳の監督が指揮し、世界各国の実力者がそろう少数精鋭の集団が、今季のリーグ1を盛り上げている。第9〜27節は19戦無敗、欧州圏内も狙える位置で奮闘中のスタッド・ランスだ。伊東純也を追ってかの地へ足を運ぶうち、このチームと街に魅了された小川由紀子さんが、パリからの小旅行にもおすすめ、シャンパーニュ地方にあるフランス王家ゆかりの古都ランスを案内する。
昨年のW杯カタール大会でも大活躍した日本代表の俊足ウインガー、伊東純也選手が所属するフランス・リーグ1のスタッド・ランスは、パリの東駅から高速鉄道TGVでわずか45分ほどで行ける、絶好のロケーションにある。
ランスは「Reims」と書くので、“なぜこれでランス?”と外国人にはちょっとハードルが高い発音だ。イギリス育ちのFWフォラリン・バログンなどは、見たまま「レイムス」と呼んでいる。カタカナで書くと、同じリーグ1のクラブ、RCランスのある北部の「Lens」と同じ綴りになるのもややこしい。
ともあれランスは、距離にしてパリから北東に150kmほど、車だと1時間半くらいのところにある、シャンパーニュ地方の中心都市だ。シャンパーニュ地方と聞いて連想するのは、フランス語でシャンパーニュと呼ばれる、あの泡々でキラキラの液体、そう、シャンパンである。世界中にスパークリングワインは多々あれど、「シャンパン」を名乗れるのはこの地で作られたものだけという、由緒ある土地だ。
シャンパン業が盛んとのことで、ランスがなんとなく裕福そうな街だというのは、駅を出た瞬間から感じ取れる。多くの街では、中央駅の周りはケバブ屋のようなテイクアウトの店が並んでちょっと雑多な雰囲気があるものだが、ランスは駅前から美しいプロムナードが伸びていて、その入り口には高級レストランが佇んでいたりする。
そんな貴族的な空気が漂っているのは、シャンパン業のおかげだけでなく、この地が古くから歴代国王の戴冠式が行われていた、王族と縁の深い場所だったからでもある。そのためランスには「王様たちの都市」(la Cité des Rois)という別名もあるそうだ。
大聖堂、ステンドグラス、フジタ礼拝堂、シャンパーニュの丘陵…
スタッド・ランスのホームスタジアム、スタッド・オーギュスト・ドゥローヌは、ランス駅から徒歩で15分ほどと、これまた便利で観戦にはありがたいのだが、その道すがらにぜひとも足を運んでほしいのが、世界遺産にも指定されているノートルダム大聖堂だ。
だいたいどの街にも中心地には立派な教会があるが、ここは歴代の25人の王が戴冠式を行ってきたという、壮大な歴史を感じられる特別な場所だ。25人の中には、ジャンヌ・ダルクの活躍でイングランド軍を退け、王位を戴冠したシャルル7世もいる。ちなみに馬にまたがるジャンヌ・ダルクの勇ましい銅像は、王たちを見守るかのように大聖堂前にそびえている。
そうした史実だけでなく、建物の正面のファサードに施された無数の彫像やステンドグラスなど、このランスの大聖堂は教会建築の真髄を堪能できる芸術的モニュメントでもある。
とりわけじっくり観察したいのがステンドグラスだ。自分のような芸術オンチは、“カトリック教会のステンドグラスってどこも似たり寄ったりだなァ”などと思うことも多々あるのだが(恥)、この教会には巨匠マルク・シャガールが手がけた作品や、ブドウの産地ならではのシャンパン製造の様子を描いた実にオリジナルな作品があって、思わず食い入るように見てしまう。
このシャンパン製造工程のステンドグラスには、ドンペリの愛称でおなじみの「ドン・ペリニヨン」を作った、シャンパンの生みの親とも言われるドン・ピエール・ペリニヨン修道士も描かれているそうだ。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。