ベスト16進出を果たしたカタールW杯後の初戦に、南米の強豪ウルグアイを迎えた日本代表。1-1のドローとなった一戦ではどんな方向性が示されたのか。『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者、らいかーると氏が分析する。
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「最終回じゃないぞよ、もうちっとだけ続くんじゃ」
『ドラゴンボール』に登場する、亀仙人の名言です。チーム森保の物語もカタールW杯を最終回とせずに、もうちっとだけ続きます。
レビューに入る前に、チーム森保のストーリーを簡単に振り返ってみましょう。W杯前に[4-3-3]の限界を感じたチーム森保は、[4-2-3-1]への回帰を行います。[4-2-3-1]で取り組んだ親善試合の内容は決して良いものではありませんでしたが、そのまま本大会に突撃することにしました。
しかし、ドイツ戦の前半を思い出してみると、絵に描いたようなフルボッコの試合展開となりました。そして、森保一監督が懐に差していたであろう[3-4-2-1]と「人を基準とする攻撃的なプレッシング」によって、ドイツ、スペインの撃破に成功します。ボール非保持の状況では強さを見せていた日本でしたが、ボール保持の状況では肉でも魚でもない状況を繰り返すことになってしまいました。その肉でも魚でもない状況が、コスタリカ戦とクロアチア戦の敗戦に繋がってしまったことは言うまでもありません。
日本は良い意味で選手と監督の「共犯関係」によって成り立っています。W杯の結果を受けて、多くの選手たちから「ボールを保持する戦い方」への言及が目立ちました。もちろん、カタール大会で示した「プレッシングの強度」を維持したうえでの話となります。この流れは2010年、岡田武史監督の土壇場の変更による「守備的なサッカー」から、アルベルト・ザッケローニ監督時代の「自分たちのサッカー」への流れにそっくりなことに、多くの人が気づいていることでしょう。
となると、ここからの4年間は「自分たちのサッカー」がケーキの上に乗せる苺になるのかどうか。届きそうでつかめないいちごになるのか。そもそもイチゴだけになってしまうのか、注目点の多い4年間となります。そんな4年間の第一歩となる国立競技場で行われたウルグアイ戦には、6万人を超える観客が雨の中でも集まりました。この事実だけでも、W杯で結果を残した意味があったんだと感慨深くなったことを、当時を振り返る記録として残しておきます。
餅は餅屋
「ボールを保持しよう」を標語とするかと予想された日本代表は、偽サイドバックを携えてボールを保持することを目指しているようでした。偽SBとは、SBが大外レーンから内側レーンに移動することを意味しています。主な移動先はセントラルハーフかインサイドハーフの位置です。この試合の日本の場合は鎌田大地の横(インサイドハーフの位置)、つまり相手のDFとMFの間に位置することが多かったです。歴代の代表を思い返してみると香川真司や南野拓実が主戦場としていたエリアに菅原由勢と伊藤洋輝がいる光景は、確かに新しい景色であったことは言うまでもありません。
偽SBが行われる主な理由は3つ挙げられます。
・SBの内側への移動によって、大外レーンで待機するスペシャルな選手へのパスラインを作ること。この試合で言えば堂安律、三笘薫へのパスラインの創出となります。
・内側への移動によって、相手の守備の基準点を乱すこと。SBと本来対峙するであろう、相手のウイングが見るべき対象をなくすことを目的としています。ただし、この試合ではゾーンディフェンスを基調とするウルグアイのルールの前に、この目的は効果的ではありませんでした。
・ボールを失った時に大外レーンよりも中央3レーンを守ることができること。ただし、日本の場合は鎌田の横まで移動することが多かったので、ボールを失った時に備えるというよりはボール保持を強く意識した配置であった可能性が高いです。遠藤航や守田英正の横に移動する場合がこのケースに値すると言っていいでしょう。
遠藤、もしくは守田が日本のCBの間に下りることで3バック化することをきっかけに、日本はそれぞれの選手の立ち位置を整理していきました。もちろん、SBの選手が本来の位置でプレーすることもあります。このように、プレーする位置によって役割が変化していくことは、現代サッカーにおいてスタンダードになっています。日本の配置を強引に表現すると[3-1-5-1]と言ったところでしょうか。ただし、南野たちが主戦場としていた位置に菅原と伊藤を配置して、彼らがボールを受けて何ができるんだ?!問題は存在します。餅は餅屋です。偽SBの罠はここにあります。
なかった役割の多彩さ
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。