ミハイロ・ペトロヴィッチ体制6年目のスタートは、リーグ戦1勝3分1敗(7得点7失点)。それでも、来日18年目の名将がJ1歴代最多指揮記録(525試合)を達成した第3節から「右肩上がりの内容」で、翌節には2022シーズン王者、横浜F・マリノスに土をつけた。J1定着を実現させてきた“ミシャ式”の戦術に、攻守両面でバリエーション増を図る今季の北海道コンサドーレ札幌。その開幕1カ月を経た現状と露見した課題を、地元で長年クラブを追う斉藤宏則氏がレポートする。
「私がこの17年間、日本で仕事をしてきた中で今日の試合が最も洗練されていた。モダンでアップテンポ。最も優れていたとも評価できる」
第4節の横浜F・マリノス戦後、“ミシャ”ことミハイロ・ペトロヴィッチ監督は前年王者からの2-0勝利を上機嫌で振り返った。持ち前の、フルコートでのマンツーマンディフェンスによるハイプレスを通常よりも手厚くし、マイボールは相手守備の背後へシンプルに蹴る戦略がハマっての完勝は、北海道コンサドーレ札幌にとっての今季公式戦初勝利。安堵もあっただろう。この2023年はキャンプ中から負傷離脱者が重なり、練習試合でも白星から遠ざかっていた。迎えた開幕のサンフレッチェ広島戦(0-0)では引き分けたものの攻守に連動性をまったく出せず。続く第2節のヴィッセル神戸戦(1-3)も同様のパフォーマンスで完敗。キャンプも含め先行きが不安な形でシーズンをスタートさせたとあって、横浜FM戦での勝利は喜びもひとしおだった様子だ。
「走る」「戦う」「規律を守る」に立ち返る
低調な滑り出しとなったチームを支えたのはハードワークだった。ミシャサッカーといえば可変システムによるパス交換などコンビネーションやテクニカルな部分がフォーカスされがちだが、札幌でのミシャサッカーの柱となっているのはプレー強度と運動量。「走る」「戦う」「規律を守る」を3大原則としている。開幕からの2試合では新戦力の加入に伴い連係面が不十分で、そこでも頑なに戦術通りのプレーを貫こうとする選手と「うまくいかないならばシンプルに縦に速く」と割り切って戦い方を変えた選手が混在。結果、あらゆる歯車にズレが生じたような状況だった。
だが、そこで選手は原則に立ち返る。「コンビネーションのところがうまくいかないならば、走る、戦うといったハードワークで穴埋めをしていけばいい。走る、戦うは意識しさえすればできることだから」と神戸戦後の右WB金子拓郎。第3節のアルビレックス新潟戦では結果的に2-2のドローで終わるものの、金子の言葉通りに立ち上がりから勢いをもって前方へと足を動かす札幌らしい戦いぶりを見せていた。「右肩上がりの内容だった」とミシャも手ごたえを口にし、ここから前述の横浜FM戦へと進んでいく。
この試合では通常の1トップ2シャドーの形を2トップ2シャドーに変え、前線からのタイトなハイプレスが横浜FMに対してあまりにも見事にハマった。ゆえに戦略による勝利として別枠で捉えるべきかもしれない。だが、MF小林祐希(←神戸)、MF浅野雄也(←広島)という新戦力がチーム戦術のマンツーマンによるハイプレスの牽引役として躍動したのは大きな収穫だし、「前に人数をかけ、ボールを奪われてからも敵陣で素早く守備を開始したことで、全体が後ろに下がらずに済んだ。それによって体力の消耗が軽減できたのは良い成功体験になった」とDF岡村大八は語る。岡村が言及した部分は、マンツーマンによる体力消耗で試合終盤にプレー強度が下がってしまうという、ここ数年の札幌が抱えていた慢性的な課題に明確な改善の兆しがあることを示している。指揮官が称賛した一戦の意味はやはり大きい。
攻では「背後」、守では「カバー」をより意識
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Profile
斉藤 宏則
北海道札幌市在住。国内外問わず様々な場所でサッカーを注視するサッカーウォッチャー。Jリーグでは地元のコンサドーレ札幌を中心にスポーツ紙、一般紙、専門誌などに原稿を寄稿。