ダビド・シルバが帰って来た。ふくらはぎの負傷が癒えて約1か月ぶり、6試合欠場後の復帰だった。リーガでは先々週のカディス戦(0-0/3月3日)で29分、先週のマジョルカ戦(1-1/3月12日)で81分プレー。この間チームは2分と結果が出ていないが、彼自身のパフォーマンスは素晴らしくケガの影響はみじんも感じさせない。不可欠で代えが利かない37歳のプレーをまた楽しむことができそうだ。
久保建英目当てでソシエダを見ていて、シルバに魅了される、という人は少なくないと思う。私もその一人だ。
彼の名を聞くと「スペースのないところでプレーさせれば、彼以上の選手を見たことはない」というグアルディオラの称賛が自動的に頭に浮かぶが、今のシルバはこの評そのものだ。マンチェスター・シティやスペイン代表でプレーした頃とはゴールもアシストも比べものにならないが、ソシエダのトップ下の方がより本来の彼らしいプレーが見られているのではないか、と思う。「周りを動かす」とか「中盤を支える」とか、個人スタッツに表れないプレーをする者がそもそもMFと呼ばれるのだから。
シルバがいかにスペシャルなのかは久保と比較するとよくわかる。
二人はまったく特徴が違うが、「攻撃的MF」という点では一括りにできるし、「ソシエダのトップ下」(中盤ダイヤモンド型[4-4-2]の頂点)として久保はシルバの代役に抜擢されたこともあるから、“似ている”とも言える。日本人なら両者とも気にしているだろうから、比較対象としてはふさわしい。
久保との違い①:シルバは前を向く必要がない
久保は前を向かなければ有効なプレーができないが、シルバは前を向く必要がない。
例えばボール出し。ワンボランチのスビメンディが相手FW2人にマークされている。スビメンディはバルセロナで言えばブスケッツに当たる。ボール出しを阻止しようとすればまずブスケッツをマーク、というのは常識である。
そこで、GKはどちらかのCBへボールを出す。CBが縦にボールを入れて来たところへシルバが下がり、ワンタッチでスビメンディへ戻す。これでボール出し成功。相手FW2人のマークは無効化され、スビメンディは前を向いてフリーでボールを持てる。この時のシルバのプレーは俗にクサビと呼ばれるが、スペインではCB、シルバ、スビメンディが関わった一連のプレーを「第三の男」と呼ぶ。CBが第一の男、シルバが第二の男、スビメンディが第三の男。相手はシルバがパスをもらいに行く動きに注意を注いでいるので、同時にシルバのパスをもらえる場所に動き始めているスビメンディの動きを感知できない。
よって、第三の男は「必ず」フリーになる。フリーにならないとすれば、もらいに行く場所を間違ったかパスやトラップがブレたかの、いずれもボールを持つ側のミスのせいで、相手が感知できたせいではない。
久保がこれをできるか?
久保は実は第三の男は得意だ。シルバがもらいに行くと同時に久保が動けば、シルバから高い確率で素晴らしい精度のパスが入る。シルバが空けたスペースを久保が使う、というコンビではアイコンタクトの必要さえないという高レベルで両者は理解し合えているように見える。が、ここでは久保は第三の男であって、シルバのように第二の男として関与しているわけではない。
「第三の男」のうち最も難易度が高いのが第二の男である。ボールをもらいに行き、引き出したパスをノートラップで味方に繋がなければならないから、技術力、空間把握力、戦術理解力ともハイレベルでなければならない。
さらにシルバが凄いのが背中に目があるかのようにプレーをするところだ。
スビメンディの例のように第三の男は目の前にいるとは限らない。久保の例のように背後にいるかもしれない。
シルバは下がりながら背後の久保の動きを意識し、久保の動きに合わせて久保が次のアクションを起こしやすい場所と質のボールをピンポイントで送り込むことができる。下がるシルバと上がる久保の間には何本もの敵と味方の足があるが、パスにはそれらをかいくぐる精度がある。さすがのシルバも第三の男が背後にいる時には、ワントラップしてチラ見することもあるが、一瞬後にはパスが送り込まれている。背後にマーカーが張りついているのだから時間的余裕はほとんどない。
久保もすべてのプレーが目の前で展開されれば第二の男になれるかもしれない。が、背後にいる第三の男へはパスを出せないのではないか。この久保との違いは、シルバは下がって有効なプレーができる、と言い換えることができる。
ソシエダではシルバが下がると、何人もの第三の男候補が動く。シルバは仲間のフリーランを裏切らず、その中から間違いなくベストを選ぶことをチーム全体がわかっているからだ。
久保との違い②:シルバはキープに貢献できる
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。