ついに幕が切って落とされた2023シーズンのJ3リーグで、テゲバジャーロ宮崎に0-2で勝利。続く愛媛FCとの一戦は1-1の引き分けに終わったものの、アウェイ連戦から勝ち点4を持ち帰り5位につけているAC長野パルセイロ。第3節の本拠・長野Uスタジアムで奈良クラブを迎え撃つホーム開幕戦を前に、就任2年目に突入したシュタルフ悠紀監督の体制初年度を振り返るとともに、新シーズンにおけるチームの戦術的進化を番記者の田中紘夢氏と占っていこう。
2年前の12月10日。クラブの公式発表に先んじて、地元紙の朝刊とWEBで『J3・AC長野 新監督にシュタルフ氏』と報じられた。当時のSNSでの反応は「熱い男」「イケメン」「良いサッカー」などと好意的なものばかり。37歳の若き闘将の就任に、誰もが胸を躍らせていた。
かくいう筆者も同じ気持ちがあった。なんせその年のJ3で番記者としてAC長野パルセイロを追う中で、最も魅力的な対戦相手だと感じたのが、シュタルフ悠紀監督率いるY.S.C.C横浜だったのだから。
4連勝中の長野が圧倒された一戦の記憶
2021シーズンのYS横浜は、長野の1つ上をいく8位でフィニッシュ。それまでのJ3での最高成績は12位だったが、史上初となるトップハーフ入りを果たした。そのチームを率いていたのがシュタルフ監督。就任初年度の2019シーズンからリフレッシングなアタッキングフットボールを展開し、同年は順位こそ13位に終わったが、リーグ4位の得点数を記録した。しかし、翌年の2020シーズンは16位に転落。アマチュア選手が多いYS横浜にとって、コロナ禍での過密日程はあまりにも酷な条件だった。
それでも就任3年目、YS横浜での最終年となる2021シーズンに盛り返した。開幕8試合勝ちなしで最下位に転落したが、その後は立て直しに成功。終わってみればJ3参入後最多勝利数かつ最高順位と、大きく歴史を塗り替えた。
その中で筆者が冒頭に記した通り、YS横浜を「最も魅力的な対戦相手」だと感じた試合がある。前半戦ラストゲームとなる第15節、長野のホームでの戦いだ。
試合は37分、YS横浜がデザインされたスローインの流れから先制。長野も前半のうちに追いついたが、後半開始早々にYS横浜がカウンターから再び勝ち越し。最後は長野がセットプレーから追いついて2-2となる、白熱したシーソーゲームだった。
当時の長野は4連勝中で、しかも4試合15得点(1試合平均3.75)と飛ぶ鳥を落とす勢いがあった。ホームでの前半戦ラストゲームを5連勝で飾ろうと意気込んでいたが、そこに立ちはだかったのがシュタルフ監督率いるYS横浜。
「J3の上位争いでもおかしくない好ゲームを両チームの選手が見せてくれた。その中でチャンスの数で言えば我われに分があった」
そうシュタルフ監督が振り返った通り、ゴール期待値とシュート数でもYS横浜が圧倒。2点目のカウンターに代表されるように、ンドカ・チャールスや神田夢実の機動力を生かした鮮やかな崩しが散見された。これは余談だが、「アウェイの長野サポーターがすごくいい雰囲気を作り出してくれた」と当時話していたシュタルフ監督が、まさか翌年からその長野サポーターを味方にするとは思ってもみなかった。
巧妙な可変システムとJ3随一のビルドアップ
シュタルフ監督のサッカーを一言で表すのは難しい。強いて言うなら『ビルドアップを基調としたスピーディーなフットボール』だろうか。2022年に長野へ就任して以降は、それに横山雄次前監督が3年間積み上げてきた堅守を重ね、攻守にスキのないフットボールを目指していった。……
Profile
田中 紘夢
東京都小平市出身。高校時代は開志学園JSC高(新潟)でプレー。大学時代はフリースタイルフットボールに明け暮れたほか、インターンとしてスポーツメディアの運営にも参画。卒業後はフリーのライターとして活動し、2021年からAC長野パルセイロの番記者を担当。長野県のアマチュアサッカーも広く追っている。