カタールW杯で対峙した日本のサッカーファンに強烈な印象を残したヨシュコ・グバルディオル。クロアチアでは彼を筆頭に才能あるCBが次々と登場している。その最新作がハイデュク・スプリトで16歳でデビューしたルカ・ブシュコビッチだ。この名前、覚えておいて損はない。
近年のクロアチアはCBが大豊作だ。カタールW杯ではヨシュコ・グバルディオルが世界中のサッカーファンの度肝を抜いたが、風貌と風格が20歳(当時)の若者とは思えなかったことが驚きに輪をかけた。3位決定戦でグバルディオルとペアを組んだヨシップ・シュタロ(23歳)、昨年のUEFAネーションズリーグではシュタロと組んでフランスを零封したマルティン・エルリッチ(25歳)がクロアチア代表の新たなCB三本柱。2月23日にデヤン・ロブレンが代表引退を宣言したが、国内で悲観論がまったく生まれないのは三本柱に対する国民の信頼度が高いためだ。
代表チームでは右SBの2番手、ヨシップ・スタニシッチ(22歳)は本来CBの選手であり、しばしばバイエルンでもCBを任されている。ボランチのクリスティアン・ヤキッチ(25歳)もフランクフルトでCBをこなしているし、カタールW杯は落選したドゥーエ・チャレタ・ツァル(26歳)だって老け込むにはまだ早い。フランクフルトで成長を重ねるフルボイエ・スモルチッチ(22歳)や今冬にイストラからディナモに移籍したマウロ・ペルコビッチ(19歳)も将来のA代表に近い逸材だ。
190cm超えの長身、かつ得点力も兼ね備えたCB
代表チームのCBは10年安泰といえる状態の中、「規格外」の16歳のタレントがクロアチアサッカー界を賑わせている。
ハイデュク・スプリトのルカ・ブシュコビッチ。スプリトはクロアチア国内でも高身長の人が多く、17~20歳の男性の平均身長(2019年調べ)は183.8cmだが、ブシュコビッチの身長は193cm(一部資料では195cm)。19歳以下のユースチームでは頭一つ分大きく、ピッチ上では制空権を独占する。落下地点の予測にも秀でており、今季のU-19世代の公式戦では17試合で8得点を記録。ボランチでもプレーしていたことからビルドアップを得意とし、ハーフウェイライン手前から60mのロングシュートを叩き込むパワーも併せ持つ。
Bila je boja i sina moga…❤️? pic.twitter.com/upfOiANOda
— HNK Hajduk Split (@hajduk) February 24, 2023
昨年12月16日、本拠地のスタディオン・ポリュウドで行われたシャルケとの親善試合で、ブシュコビッチはトップチームに混じって途中出場。熱狂的サポーターの「トルツィダ」へ挨拶代わりにシュートをねじ込んだ。2月8日のUEFAユースリーグでもシャフタール相手にヘディングで決勝点を決めて、チームをラウンド16に導いた。その数分後には暴力行為でレッドカードをもらったが、そんな“熱さ”もスプリト生まれならではだ。
クロアチアの規定では16歳になった時点でプロ契約が結べ、トップチームの公式戦に出場可能となる。ブシュコビッチにはパリSGやミラン、レアル・マドリーやアトレティコ、バルセロナやマンチェスター・シティが関心を寄せており、市場価格が1000万ユーロまで高騰する中、一部のトルツィダはブシュコビッチが横取りされることを恐れていた。しかし、2月24日に16歳の誕生日を迎えた彼は晴れてハイデュクと2026年夏までのプロ契約を結ぶ。
「この先も(ハイデュクという)大きな“家族”の一員であり続けられるのは素晴らしい気分だ。僕は全人生をここで過ごしてきた。最初の日々や最初のゴール、アカデミーで経験したすべての出来事を覚えている。今まで(U-19の)チームメイトを助けることができたのはうれしく思うよ。僕の次なる願望は公式デビューを果たし、トップチームに貢献すること。それが僕の夢でもあったからね。すぐに実現することを願っている」
名門ハイデュクの「華麗なるCB一族」
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Profile
長束 恭行
1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。