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軸足を通すコントロールが広げる駆け引きの幅。ハリー・ケインから学ぶポストプレーの技術(後編)

2023.03.07

プレミアリーグで3度の得点王に輝き、トッテナムで10番を背負うハリー・ケイン。ゴールだけでなく巧みなポストプレーでもスパーズをけん引し続ける主将の技術を、プレー解説でお馴染みのfootballhackが前後編にわけて分析する。

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ポストプレーにおける2つの注意点

 本題に入る前に、ポストプレーの注意点を2つ挙げておきたい。まず補足として前回の記事は、ポストプレーにおいて半身になることが常に正しくないという意味で書いたのではない。ファーストタッチ時では半身ではない方が有利だと考えているが、その後の2タッチ目では半身に近い姿勢でボールを守ることが必要な場面もあるからだ。

 図1aでファーストタッチを全身でコントロールした後、図1bのように軸足の前にボールを置く。その場で時間を稼ぐ場合は、そこから体を斜めに入れてキープの姿勢に入るのがよい。そして、相手が背後から圧をかけてきたらボールの側面をインサイド付近で踏んで、踏ん張りながら横移動してバランスを保つようにすると、ボールの位置と体の位置を同時に変えながらボールを守ることができる。

 横から見たのが図2。図2e-fで前回説明した通りのコントロールを行い、体を斜めに入れて相手からボールを遠ざけながら(図2g)、腕を使ってボールを守る。この時、体格差によっては相手のリーチ外にボールがあるとは限らないので、ボールを動かしながら相手から隠れる位置に置く。そのためにインサイドでボールを踏みながら斜めの姿勢を保ち、軸足の前にボールを隠して移動する。

 50cmでもボールを動かせば、相手のタックルを外すことができる。ボールを見て狙うという守備行為をその都度やり直させられるからだ。反対にボールが止まっているとタックルを受けやすい。さらには相手から受ける圧力に対抗するために両足で踏ん張っている状態では、とっさの判断でボールを守ることができない。ボールコントロールが乱れたり、足を思い通りに動かせず、ブロックが間に合わなかったりすることがある。ボールが止まっていて、両足が地面についている“居着いた”状態は、守備側にとっては有利である。

 ボールを踏むのは、その“居着き”を解除するためだ。踏んだ後は両足が浮くので、すぐに次のタッチを行える。また、ボールを触った後に地面を踏むことで圧力に対抗する力を生み出せるのでコンタクトが起きてもバランスを保てる。

 もう一つの注意点は、縦パスを背負って受けてすぐに出し手へボールを戻すこと。そのままマークについていた相手選手は背中でポストプレーヤーを消しながら寄せられるため、リターンを受けた味方はボールだけでなくプレッシャーも引き取ることになり、返って敵のプレスを勢いづけてしまうからだ。

 一方で勇気を持って横への展開を試みれば、相手の守備陣形に迷いを引き起こせる。周辺の守備者はポストプレーヤーに食いついたDFの背後をカバーしなければならないものの、それに伴ってズレた左右のマークやエリアにパスが出る可能性も考慮して、ポジショニングを微調整しなければならないからだ。そのためマーカーから逃げるようなドリブルはもちろん、斜めにサポートする味方へのパスでも十分(図4)。それが無理な場合にあらためて、出し手への真っすぐなリターンパスを考えるべきだ。

 これがまさに前回解説したハリー・ケインのポストプレーにおける優先順位となっている。

シティ戦タッチ集にみる駆け引きの技術

 これらを踏まえてケインのポストプレー技術を、実際のプレー映像を使ってさらに深掘りしていこう。該当シーンを示す時間に開始位置リンクをつけてあるので、適宜動画を参照していただきたい。まず、検証していくのは昨年2月に行われた2021-22シーズンのプレミアリーグ第26節マンチェスター・シティ戦でのケインのタッチ集だ。……

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トッテナムハリー・ケイン

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footballhack

社会人サッカーと独自の観戦術を掛け合わせて、グラスルーツレベルの選手や指導者に向けて技術論や戦術論を発信しているブログ「footballhack.jp」の管理人。自著に『サッカー ドリブル 懐理論』『4-4-2 ゾーンディフェンス セオリー編』『4-4-2 ゾーンディフェンス トレーニング編』『8人制サッカーの戦術』がある。すべてKindle版で配信中。

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