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冬の移籍市場で480億円の大型補強。なぜチェルシーはFFP違反でないのか?

2023.03.01

チェルシーはこの冬の移籍市場において、エンソ・フェルナンデス、ミハイロ・ムドリク 、ジョアン・フェリックスなど計8名を獲得した。合計で3億ポンド(約480億円)以上の移籍金を費やしたと報道されている。「チェルシーはファイナンシャル・フェアプレー(以下、FFP)に違反するのではないか」と素朴な疑問を抱くのも無理はないだろう。その疑問に対して、FFPという制度、そもそもの会計の観点からschumpeter氏に解説してもらおう。

FFPの貢献、そしてFSRへとリニューアルした経緯

 実はFFPという名前の規則はもう存在していない。

 2022年6月1日にファイナンシャル・サステイナビリティ・レギュレーションズ(以下、FSR)というFFPに置き換わる新しい規則が施行されている。メディア、ファンからたびたび”FFP is dead”と批判されてきたFFPであるが、昨年すでになくなっていたわけだ。

 改正の経緯について触れておく。

 FFPはFSRの導入からちょうど12年前の2010年6月1日に施行されたのだが、これまで一定の成果をあげてきたことは事実である。UEFAによると、クラブが移籍金、給与、社会保障費、税金等の支払期限を超過したままにするケースがほとんど一掃された上に、欧州の1部リーグに所属するクラブの純損益の合計が、2010-11シーズンには17億ユーロのマイナスであったところ、2017-18シーズンに1億4000万ユーロのプラスに改善したという結果が出ている。

 しかし、そうした中で発生したのがCOVID-19だった。

 各クラブは収益を失った一方で、人件費はそれに応じて柔軟に下げることはできず、同時に移籍市場も冷え込んだことで選手売却による収益も期待できないという状況に陥った結果、欧州1部リーグ所属のクラブは2019-20シーズンと2020-21シーズンで合わせて60億ユーロを超える純損失を計上した。

 その一方で、FFPが導入されてからの12年間で、欧州のフットボール産業がグローバリゼーションの進展、技術革新によって拡大してきたこともあり、実情により適合した規則を制定するべく、FSRへの改正に至ったというわけだ。

「収入≠収益、支出≠費用」が誤解のもと

 では、実際にチェルシーの大型補強とも絡めながらFSRの中身の話に入っていこう。

 筆者が思うに、大型補強を敢行したクラブが、ファン、メディアから直ちに「FSRに違反しているのではないか!?」と糾弾される要因は以下である。

 FSRの指標としてまず収支があって、移籍金がそのまま全額支出に加算されることで基準値を超過する。したがって、当該クラブはFSRに違反しているとUEFAから認定され制裁を科される。SNS上での反応を見ると、このような理解をされているように思えてならない。だが、これは間違いである。

……

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エンソ・フェルナンデスチェルシーミハイロ・ムドリク

Profile

schumpeter

2004年、サッカー雑誌で見つけたミランのカカを入口にミラニスタへ。その後、2016年に当時の風間八宏監督率いる川崎フロンターレに魅了されてからはフロンターレも応援。大学時代に身につけたイタリア語も活かしながら、サッカーを会計・ファイナンス・法律の視点から掘り下げることに関心あり。一方、乃木坂46と日向坂46のファンでもある。

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