ELラウンド16進出を懸けたプレーオフ屈指の好カード、マンチェスター・ユナイテッド対バルセロナは、第1レグ2-2、第2レグ2-1で前者に軍配が上がった。今季リーガでは圧倒的な守備力で首位を走る(2月26日時点で19勝2分2敗・45得点8失点)一方、CLでは昨季に続いてグループステージで敗退し(2勝1分3敗・12得点12失点)、ELも早期終戦。なぜ欧州の舞台で苦戦が続いているのか。2戦とも先制しながら試合を支配し切れず後半に逆転を許したユナイテッド戦180分間を、おなじみのバルサファン、ぶんた(@bunradio1)さんが振り返る。
思い出すだけでも胸の痛い、あのプレー。考えただけでも奥歯を噛み締めてしまう、あのゴール。欧州の舞台から早期に去る事実が心に突き刺さる、敗北の十字架。
ELの決勝トーナメント・プレーオフ第2レグ。マンチェスター・ユナイテッドとの激闘は、公式戦19試合ぶりの敗戦という結末で幕を閉じた。
深く根づいた苦手意識から“勝てる気がしない”バイエルンとは違い、ユナイテッドに対してはリスペクトしているが“与しやすい”というイメージを持っていたクレ(バルセロナファン)は多いのではないだろうか。ペップ・バルサ時代に2度戦ったCLファイナルでの圧勝劇の残像から「自分たちの土俵でフットボールをすれば勝てる」もしくは「相手の土俵に引き込まれなければ問題ない」という教本が頭の中で仕上がっているからだ。
クローズドな展開でボールをしっかり保持し続けることで、ユナイテッドのアップテンポでバーティカルな展開に持ち込ませなければ勝てるはず。そんな自信がクレにはあったと思う。
しかし、現在リーガを独走するバルサは今までとは少し毛色が違う。ボールを保持して敵陣でプレーし、試合を支配する構造そのものは変わらないが、ゴールを奪う機能性が変化している。これまでのボールを保持したまま相互作用による自己組織化されたアタックでゴールを襲う戦型から、ボールを奪われるところまでデザインして、カウンタープレスからゴールを強襲する戦型へと軸足を置き換えているふしがある。
高度化した組織的守備を崩すために、これまでのバルサにはなかった高いインテンシティで、敵陣で相手を凌駕(りょうが)する。現代フットボールに不可欠なアスリート能力が備わったわけである。
そんな欧州基準にアスリート化したバルサが、インテンシティの権化である最強プレミア勢に真っ向勝負で戦えるのか。戦えたとしても、その先にある勝利に手が届くのか。やはり教本通りにボール保持しながらスローなテンポで挑むべきなのか。どのような姿勢でユナイテッドに挑むべきかが一つのキーポイントだったと思う。
最強4バックをいじったシャビの狙い
リーガどころか欧州5大リーグの中でも最少失点(23試合8失点)という驚異的な守備力を発揮しているバルサの最強4バック。右からクンデ、アラウホ、クリステンセン、バルデの4人のユニットは、敵陣で試合を支配する前傾姿勢の組織を強気のハイラインで支える。相手がプレスをくぐり抜けボールを前進させようものなら、ハーフウェイラインから猛然と飛び出してボールを奪い返す。ハイラインゆえに背後を狙われるリスクもハイではあるが、ハイスピードな能力を備えていることが担保となり、危険を未然に防いでいる。
そんな最強4バックを強力アタッカー有するユナイテッドを相手に第1レグ(2-2/2月16日)でシャビはいじってきた。右SBと右CBはアラウホとクンデを入れ替え、左CBは左利きのマルコス・アロンソ。左SBはベテランのジョルディ・アルバに変えてきたのだ。
試合後の会見でラッシュフォードにコンテンパンにやられ、勝てなかった結果から4バックをいじったことに総ツッコミを食らっていたシャビだが、そこでも発言していたように、アラウホをラッシュフォードにぶつける対策より、CBからの縦に差し込む球出しを作戦として上位に置いていたのである。
ユナイテッドのミドルブロックからのプレスは、スペースの管理と人へのマークの切り替えがうまいし、パスラインを切りながら鋭い追い込みもある。バックパスをスイッチにしたハイプレスも強度があった。しかし、ボール保持者に対して2人目の選手がライン奥に侵入する囮(おとり)の動きに連動させて、3人目がライン間でフリーマンになると監視が緩くなる現象をシャビは見抜いたと思う。なので相手を引きつけ、タイミングを見計らいながらライン間に差し込める能力を重要視した結果、CBのチョイスがクンデと左利きで動的方向をスムーズに整えられるマルコス・アロンソだったのだろう。
このシャビの狙いの収支はとんとんな感じであった。うまくいったりいかなかったりと、思惑が見事にハマった感はなかった。しかし、自分たちの土俵でフットボールをするためには必要な手段として、あえて最強4バックをいじったことで“らしさ”を出しながらうまく試合をまとめていたと思う。
問題は同点弾(52分)を食らった後の露骨なメンタルダウンであった。……
Profile
ぶんた
戦後プリズン・ブレイクから、男たちの抗争に疲れ果て、トラック野郎に転身。デコトラ一番星で、日本を飛び出しバルセロナへ爆走。現地で出会ったフットボールクラブに一目惚れ。現在はフットボーラー・ヘアースタイル研究のマイスターの称号を得て、リキプッチに似合うリーゼントスタイルを思案中。座右の銘は「追うもんの方が、追われるもんより強いんじゃ!」