古くからサッカーの街として知られる藤枝にプロチームが誕生したのは2009年。それから着々と歴史を刻んだ彼らは、クラブ創設15年目というタイミングでJ2の舞台へと殴り込みをかける。掲げるのは『地上最大のエンターテイメントサッカー』。攻撃的な姿勢を貫く覚悟が、カテゴリーが上がったからといって、ブレる気配はまったくない。では、そんな藤枝MYFCはどこに勝算を見出しているのか。クラブを取材し続けている前島芳雄に教えてもらおう。
“元祖サッカーの街”に居を置くプロサッカークラブの歩み
日本のサッカーを発展させるうえで100年前から大きな役割を果たしてきた“元祖サッカーの街”静岡県藤枝市。そこで2009年に産声を上げた初めてのプロチーム=藤枝MYFCが、昨年ついにJ2昇格を実現させ、今季から新たな舞台に挑む。
クラブ規模や資金力の面ではまだ上位チームと大きな差があり、降格候補に挙げる声も多いが、その一方で実際に藤枝の試合を観て「すごくおもしろい!」と魅了される人も多い。
チームとしてはプレーオフ圏内の「6位以上」という高い目標を掲げているが、果たしてそれに現実味はあるのか。藤枝というチームの魅力や可能性について、長くチームを見続けてきた立場から判断材料を提供していきたい。
藤枝がJクラブとなったのは、J3リーグが創設された2014年。その当時から大石篤人監督(14年はヘッドコーチ)の下でハイライン・ハイプレスの攻撃的なサッカーを目指してきた。だが、2018年の途中で石﨑信弘監督が就任してからは現実的なサッカーに大きく路線変更。2019年にはJ3で3位という結果を残したが昇格には至らず、2021年に倉田安治監督へバトンタッチしてからは、やや迷走状態に陥った。
そのため倉田体制に半年で見切りをつけ、同年7月に須藤大輔監督が就任したところから、再びハイライン・ハイプレスの超攻撃的スタイルへと大改革が始まる。
理想主義的な指揮官が獲得した優秀監督賞の意味
「サッカーはエンターテイメント」とつねに口にする須藤監督は、パスをつないでボールを支配し、奪われても素早いトランジションで即時奪回するという現代的なスタイルを標榜。ほぼ相手側ハーフコートで試合をしながら「2点3点で満足せず、4点5点を狙っていく」という高い理想を掲げている。
一般的に理想主義的な監督は、下位リーグではそれが絵に描いた餅に終わることが多いが、須藤監督の場合はそうならないところが、昨年のJ3優秀監督賞を受賞した由縁だ。止める・蹴るという基本的なところから精度や質を徹底的に追求し、選手の立ち位置も細かいところまで染みつけさせて、ボール保持力を高めていった。……