サガン鳥栖と北海道コンサドーレ札幌のキャンプを取材した西部謙司氏が感じたのは、“似た匂い”だった。片や新世代の若手日本人監督、片やJリーグ歴18年のベテラン外国人監督。しかし、川井健太とミハイロ・ペトロヴィッチ(ミシャ)の哲学は根底で通じ合っている。
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「勝利を目指しながらも、もう1つの部分も追求していきたい」
沖縄キャンプ。サガン鳥栖のトレーニングは少なくとも3カ所に分散していた。それぞれ別々のメニューを異なるコーチが主導する。川井健太監督はフィールド全体を見渡せる位置にいるため、1人だけ遠くにポツンと佇んでいた。
こういう指導スタイルなのですかと聞くと、「今はそうなっています」という答え。
「僕のやりたいことは事前に伝えてメニューを組んでもらっています。今のやり方が選手にとって効果的かつ効率的なので、今はこれがベスト。選手にも普通のことになっています」
コーチたちの声かけにおける用語の統一感、練習時の機動力に感心したのだが、何となく感じたのがインストラクター的な姿勢だった。
練習をコーチに任せること自体は珍しくない。今年のキャンプで見たほとんどのチームがそうしていた。すべてを監督自身が取り仕切る方が今では少なくなっていると思う。かつてのマルセロ・ビエルサやアレックス・ファーガソンもトレーニングではもっぱら観察者だった。ただ、鳥栖と他チームの微妙な違いがコーチの姿勢である。日本で多いのはOBが練習をつけているという雰囲気なのだが、鳥栖は声かけ1つでも“上から目線”を感じない。選手を手助けしている、少し誇張すれば顧客として扱っている。ジムのインストラクターみたいだった。
「そこまでは言っていませんし、怒るなとも言っていません。ただ、最初にコーチングスタッフに言ったことがすべてだと思うのですが、『選手を認めましょう』『鳥栖でやると決めた選手たちを認めましょう』ということです。僕たち指導者の良くないところなのですが、一緒にやっているうちに悪いところが目についてしまって、そうするとその選手が悪い人みたいに見えてしまう。そうではなく、人として認めましょうということ。『次やりたい』と思わせないといけない。プロだろうが、それは同じです。そういうこともあって今のコーチングになっているのかもしれませんね」
価値観は少しずつ変わっていくものだ。そして元には戻らない。鳥栖はフットボールの「今」を体現しているチームに見える。
筆者は1990年代からフットボールの価値観が大きく変わっていったと実感しているが、先輩方に聞けばそれは70年代からすでに始まっていたそうだ。フットボールの商業化だ。特に1995年のボスマン判決を境に加速度的に資本主義に呑み込まれていったのを目の当たりにしてきた。簡単に言うと勝利至上主義。勝者だけに価値があるという考え方と、それを前提としたシステムである。ただ、価値観は少しずつ変わっていくもの。それが誰も、勝者ですら幸せにしないシステムだと世の中は気づき始めているように思う。
その点でも鳥栖は「今」のチームだ。勝つこと以外の価値も重んじている。
本日の #トレーニングマッチ の結果をお知らせいたします⚽️
?1月29日(日)
⌚️11:30- 45分3本
? #浦和レッズ
?#金武町フットボールセンター
?4-3(1-2 0-1 3-0)応援ありがとうございました?♂️#サガン鳥栖 pic.twitter.com/KpazCAW5Jq
— サガン鳥栖公式 (@saganofficial17) January 29, 2023
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。